厨ヒロインが流行する背景

概要


厨ヒロインの流行 - 萌え理論Blog

近年の美少女コンテンツを見るに、「厨(二)ヒロイン」というタイプのキャラクターが、小流行しているように思える。


前回提出した「厨(二)ヒロイン」が流行する背景について、今回は考えたい。厨ヒロインとはどのようなキャラクターか分かりやすくするために、前記事の代表的な厨ヒロイン一覧を再掲しておく。

考察

厨二ヒロインの例
厨ヒロインの例
厨ヒロインが流行する背景

上に列挙したような厨ヒロインが増えた背景はどうなっているのだろうか。色々な理由が考えられるが、シンプルな仮説をひとつ出す。それは、ネットの普及が厨ヒロイン流行の背景にあるということだ。どういうことか。

「厨」という言葉は「厨房」の短縮形だ。「厨房」とは、主にネット上で、自己中心的な振る舞いをする者を指す。その厨房たちの言動に、作者や読者が触れる機会が増えたことが、厨ヒロインが受け入れられる下地を作ったと考えている。そもそも、「厨」という名称を使っているのも、そのように関連性があると考えたからだ。

そのように厨ヒロインが、匿名環境での厨な言動を反映しているとしたら、もともとネット環境で生まれた性格類型なのだから、ネットで話題になりやすいのはある意味当然だ。ただし、反応には近親憎悪的な拒否反応も含まれているだろう。

厨ヒロインの系譜

厨(二)ヒロインと系譜として近いのはどのようなキャラクターか。ひとつには、セカイ系作品からの継承が考えられる。しかし、単にそのまま模倣しただけではない。というのも、セカイ系作品のヒロインは、ふつう厨ヒロインではない。

セカイ系作品のヒロインは、精神世界と作品内での現実世界との解離がない。思考が現実化する設定*1などによって、実際に世界を救う能力を持っていたりするのだから、単なる厨の妄想などではない。セカイ系ヒロインから見ると、厨(二)ヒロインは日常に頽落した存在である*2

また、美少女ゲーム、とりわけ泣きゲのヒロインから見ると、純粋さが独善的・排他的になっている*3。たとえば、「永遠はここにある」というと感動的だが、「ただの人間には興味ない」という言葉になると厨になる。あるいは、ヒトデ(の彫刻)を配ると感動的だが、バニーガールでビラを配るという行為になると厨になるのだ。泣きゲの純粋ヒロインと厨ヒロインの関係は、ツンデレヤンデレのようなものか。

厨ヒロインのポジション

らきすた』の主人公・こなたはオタクなので、読者・視聴者との距離が近いということは分かりやすい。そして実は、『ハルヒ』の主人公・ハルヒも、ネットでよく見られる厨という類型を介して、意外と近い距離にいたのだ。

00年代前半に流行した『シスタープリンセス』をメルクマールとする妹キャラは、物語内で主人公と近い位置にあった。だが00年代後半に台頭したこなたやハルヒは、物語外の読者と近い位置にいる。また、『デ・ジ・キャラット』においては、脇役だったオタクが、『らきすた』では主役になっている。

このキャラクターのポジションの変化は、「コンテンツ志向コンテンツ」から「コミュニケーション志向コンテンツ」*4への変化を反映したものだと捉えている。『ひぐらしのなく頃に』でネットなどでのゲーム外の推理が本質的なゲームだったように、『らきすた』はネットなどでのストーリー外の反応(「こなたは俺の嫁」というようなコメントなど)が本質的なストーリーなのである。

*1:たとえば「ATフィールド」が「心の壁」であるように

*2:ただし、『涼宮ハルヒの憂鬱』の涼宮ハルヒは、セカイ系ヒロインであり厨二ヒロインでもある、両義的な位置にあると見ている。そのように特殊な位置にいるのは、ハルヒ自身が自分の立場に気付かないからだ。これに対して、『うみねこ』の真里亞と縁寿は、その逆になっている。すなわち、立場に対して十分自覚的だが、いまだ得られていない

*3:ただし『ToHeart』の来栖川芹香は黒魔術を扱っているし、『KANON』の川澄舞は魔物と戦っていた。だから、精神世界という要素が、もともと潜在していた

*4:ゲーム的リアリズムの誕生』による区分