『ドリームクラブ』「飲酒」システム考

概要


ドリームクラブ』のゲームシステムは「飲酒」を中核としている。これを考察したい。

ドリームクラブ』「飲酒」システム考

基本はオーソドックスな恋愛SLG

ドリームクラブ』の先行作品には、3DCGで描かれたキャラクターが歌と踊りを披露する『アイドルマスター』シリーズや、キャバクラのモチーフを取り入れた『龍が如く』シリーズがある。

『ドリクラ』の基本的なゲームシステムは、パラメータ上げの育成部分と、選択肢+フラグの会話部分という、オーソドックスなシステムを採用している。要は『ときメモ』時代からよくある恋愛SLGだ。では新味はないのだろうか。

ゲームシステムの骨格をなす飲酒要素

だが、「飲酒」というモチーフは、3DCGに比べると地味な要素ではあるが、恋愛SLGのシステムとして、成功しているように思える。

飲酒システムを簡単に説明すると、「ドリームクラブ」に勤めるヒロインに、酒を飲ませて口説く、というものだ。酒を飲むと本音が出て、ヒロインのガードが緩くなり、攻略しやすくなる。その一方で、どんな酒をいつ注文するかとか、酒代や延長料金を考慮に入れて稼ぐ(育成する)、といった要素が出てくる。

つまり、とりあえず飲ませる、という攻略ポイントができ、ゲームの目的が明確化した。そして、飲んでからの話題はキャラクター自身の謎に向かって加速して、キャラクターの会話が単調にならない。それでいて、酔いはすぐ醒めるものなので、ゲームバランスを崩さない。

ギャルゲにおけるヒロインの状態遷移

さらに、飲酒システムの長所として、酒を飲めば酔うのは自明のことなので、プレイヤーが直感的に分かりやすい、ということが挙げられる。これはギャルゲにとって、非常に重要なことだ。

キャラクターが複数の状態を遷移するという発想は、ギャルゲの歴史上すでにある。ひとつ例を挙げると、『ずっといっしょ』がそうだ。喜・怒・哀の感情が移り変わっていく。

だがヒロイン育成以外の一般的な恋愛SLGにおいて、ヒロインのモード変化は、好感度や友好度の上下くらいに留められているだろう。なぜか。

ギャルゲのジレンマ

そもそも、ヒロインに複数モードを設けようとするのは、現実にいる人間の自然なコミュニケーションに近づけるものだろう。しかし、プレイヤーが何をすれば、状態が変わるのか分からなければ、結局は総当たりや攻略本頼みになる。すると、結果的には人工的で作業的なプレイになってしまう。

実際にやると分かるが、育成ゲームでパラメータの数を増やしたら、ノベルゲームでフラグの数を増やしたら、より自然なプレイ感になる、などということはまずない。むしろ、ちょっとした見落としでゲームが詰まり、ストレスが溜まるに違いない。

ギャルゲにおいて複雑なシステムが成功するのは難しい。ふつうは、システムを精緻にしようとすればするほど、現実から遠ざかっていく。結果的に、現実と全く別の精密な箱庭ができる。

ゲームとはそのようなものかもしれない。たとえば、弾幕STGなどは実際の航空戦と大きく隔たっているだろう。ゲームとして面白ければそれでよいのではないか? しかし、美少女ゲームにおいては他ジャンルと異なり、プレイヤーはゲームよりもキャラクターに興味があるのだ。

「飲酒」というシンプルな解

このように、人間の自然なコミュニケーションを模そうとして、システムを複雑化させるとかえって現実から遠ざかる、というギャルゲのジレンマが存在する。

これに対して、「SIMPLE1500」シリーズを出したD3パブリッシャーだけあって、『ドリクラ』の解は「飲酒」するという実にシンプルなものだ。

いや、飲酒自体は結構複雑な要素がある。誰でも共通して酔える、それでいて酒の強さに個体差がある、アルコール度数が高いほど酔いやすい、酔いは翌日にはリセットされる、酔えば本心が出やすい、などなど。しかし、それらは誰もが理解していて、わざわざ説明する必要がない。

そして、そもそも現実に、コミュニケーションが円滑にしようと飲み会が開かれているわけだから、飲酒によって攻略が進むことに対して、不自然な予定調和だという印象が薄い。「パンをくわえてぶつかった相手が転校生」「チンピラが絡んでいるところを助けたら転校生」といった偶然的エピソードとの違いだ。

ギャルゲでは珍しいモチーフ

飲酒をベースにしたゲーム進行というのは、家庭用ゲームではあまり見られない。ここで、レーティングは関係するだろう。特に、近年のアニメ・ゲームで、未成年の飲酒シーンはほとんど見かけない。

通常のギャルゲでは、未成年のヒロインが多いため、飲酒シーンを入れられない。さらに、ヒロインの清純性が重視されるため、飲酒・喫煙などの要素を入れたくない。

だから今までギャルゲでほとんどなかった*1のだろう。しかし、『ドリクラ』はその固定観念をあっさりと振りほどいた。だから、地味ではあるが画期的なことだ。そして、酒を飲むというのも、かねてから私が言う「シミュレーション」にほかならないのである。

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*1:一応、エロゲでは「クラブ・ロマンスへようこそ」シリーズなどなくはないが