エロゲ界隈近況についてのまとめ

概要

(…)PC エロゲー界隈について見聞きした情報をざっと整理…するのは無理なので、とりあえずおもいついた順に書き並べ。

引用元と漠然とした認識の共有はある*1ものの、細部においては意見の相違があるので、「おもいついた順」を並べ直し、そこにコメントを加えて整理した。

業界規模

業界規模もおそらくは 3,4(4,5?)年前が最高で、そこから縮小…

エロゲ史上トップクラスのヒット作品「Fate/stay night」が出た、2004年がピークだろうが、その続編も出ているので、後退は緩やかだろう。また、エロゲは、劣化せず複製でき単価が高い、PCゲームが主なメディアであり、共有ファイルソフトの流行に、大きな影響を受けている。だから、フィギュアなどダウンロードできない特典をつけたがるのだ。

ブーム退潮以降開発規模の拡大路線は頭打ちになり、大作をじっくり作ることのできる少数の有力ブランドを除いて、パフォーマンスと機動力で勝負する時代になっている。

これが引用先の主な論旨になっている。エロゲバブルの時代は過ぎ、大手の大作以外は小粒だ、というのはそんな気もするが、実際はCG枚数やシナリオ量はずっと増加してきたので、今の中堅くらいの作品は、昔の大作に匹敵するのである。

そして、ユーザの可処分時間は限られており、必然的にパイの奪い合いになる。これが以前から言われている容量の「ボリュームインフレ」の問題だ。しかしだからといって、単に量を減らして安くすれば売れるわけでもない。だから、どちらかというと、「パフォーマンスと機動力で勝負」したいが、既に動いているサイクルから降りるのが難しい、という印象だ。

エロゲ業界とラノベ業界

大雑把にいうとエロゲーからラノベに移っていて、オタ界隈におけるエロゲー界隈の影響力は、退潮し終わったといっていいと思う。

確かに、エロゲ界とすれ違いになる形で、特に「涼宮ハルヒの憂鬱」アニメ化以降、ラノベ界が活発になっている感はある。それから、ラノベは単価が低く複製コストは高い*2ので、共有ソフトの影響を受けにくいという面もあるだろう。

ただ、エロゲとラノベの業界規模は同じ位なので、そこまで極端に差が開いているわけではない。例えば、今年売れた「リトルバスターズ*3のKeyは、京アニがアニメ化した「CLANNAD*4も制作している。来期アニメ化される「君が主で執事が俺で」は、過去にアニメ化された「つよきす」とも関係ある*5

もちろん、エロゲより(コンシューマ)ゲーム、ラノベよりマンガの方が、圧倒的に市場が大きい。マンガ・アニメ・ゲームに比べたら、エロゲ・ラノベは小さい市場だ。ただ、オタク界における流行の先端ではあるだろう。

あとラノベの前がエロゲーっていう話でいうと、エロゲーの前はなんだったんだという話になるが、…格ゲー、とかになるのかなあ。

近いジャンルで言えば、エロゲの前はギャルゲか。「ときめきメモリアル」や「サクラ大戦」は50万本を超えるヒットで、シリーズ総計だと更に多いので、やはりコンシューマの中でのギャルゲ市場は大きくはないものの、エロゲの規模を上回っていたと見ている。ただ、KIDが倒産したこともあり、現在はそれほど甘い市場でもないようだ。

なぜギャルゲ→エロゲの順なのか。エロゲのメディアはPCゲームなので、当たり前だがプレイするにはPCが必要になる*6。だから考えられる一因として、インターネットの流行によって、多くの層がPCを持つようになったが、PCゲームはハードもソフトもコンシューマ機より高い分、普及に時間が掛かったのではないか。また、アイマスなど一部を除いて、最近のギャルゲが今一つ盛り上がらないのも、「PS3」などの次世代ハードが普及しないという要因があるのではないか。

格ゲはジャンルが少し違うが、「プレイステーション」など当時の次世代機の武器であるポリゴンを生かしている点で、共通点がある。プレステやサターンの登場による大容量化によって動画音声をふんだんに使えるようになったから、コンシューマのギャルゲが登場できたのだ*7

エロゲ業界と同人業界

現在エロゲー界隈は「商業パッケージ(PC ショップ)」「同人パッケージ(即売会&同人ショップ)」「ダウンロード販売(ネットショップ)」の三本柱で成り立っている。

そのほかに、エロゲ会社のWebサイトなどでの「通信販売」がある。これは卸を通すよりもコストが安いので、ランキングなどのように表面には出てこないものの、意外と重要な収入源になっているのではないか。そして、1〜2本リリースしただけで休止してしまう零細エロゲメーカがたくさんあって、人材が確保できないとか事情も色々あるだろうが、自前の通販で稼げないというのも、痛いところではないかと見ている。

同人&ダウンロード販売は、どちらもこれから規模拡大する流れではあったが、さらに商業の開発規模縮小と機動力商売への流れにもうまく食い込んだ形になった。

引用元では、同人が商業のパイを奪っているような書き方だ。確かに、商業と同人の境界付近では、同人に鞍替えした方が有利なケースがある。しかしそれは本来商業で動くプレイヤーが同人で活動しているだけであり、同人の大部分は商業と棲み分けている。

ちなみに、ダウンロード販売の同人市場は、「DLsite.com」のほぼ一強と見てよい。最近では「とらのあな」が「とらのあなTDS」でDL販売をはじめたが、「メロンブックス」が参入してもシェアを奪えなかった前例があるので、険しい道のりになりそうだ。

ジャンル・シチュエーションの軽量バラ売りで価格水準を引き下げる同人に対して、一般に新品 9,000 円近い商業エロゲーパッケージの立場は大変苦しくなった。

確かに苦しい立場だろうが、同人市場より中古市場に圧迫されていると考える。エロゲは中古で買えるし、新品で買っても中古に売れるのだが、中古市場は制作現場に利益を直接還元しない。そして、ポリゴンのゲームと違って*8、フルカラー・フルボイスが標準化した後では、新しいソフトの方が断然良くなっているとは限らない。だから、ここでもタイトル数の「ボリュームインフレ」に苦しめられている。

(追記:共有ソフトなどの違法コピーと異なり、もちろん中古市場は正当な市場である。コンシューマゲーム業界の中古問題も合法という結論に終わった。また、同人市場は著作権的にはグレーゾーンだが、同人に寛容なガイドラインを出しているエロゲ会社があるし、特に敵対しないだろう。もっとも、寛容なのはエロゲは最初からエロだから、イメージが低下しないというのもあるかもしれない。)

「単にエロさだけでいったら同人のほうが有利」「単に安さだけでいったら同人のほうが有利」ということで、えーとそれって商業エロゲーに勝ち目あるの?という話に。

だが実は、エロや安さは商業が上回る。確かに8800円は高いが、CG枚数などのボリュームを考慮すると、単価は同人の方が高い。スケールメリットがないから高くなる。それにエロゲは中古市場が大きい*9。ではなぜ単価が高い同人が売れるかというと、ひとえに二次創作の存在が大きい。これは商業では権利的にできない。

そして、商業エロゲのトップを走る「Fate/stay night」は、あまりエロくない(Hシーンが少ない)し、特に安くもないが、非常に売れている。これに匹敵する同人ゲームは「ひぐらしのなく頃に」くらいだろう。ひぐらしとも共通する「勝ち目」が何かは、最後に回す。

恋愛系と陵辱系

往年に「純愛系 vs 鬼畜系」みたいな対立構図があって、(…)業界全体が時代の大波をかぶっちゃったのでいまさら商業の中だけで純愛だ鬼畜だ言ってても仕方ありません、というかんじの痛み分けに終わったんではないかと思う。

現在の商業エロゲーの主流は「単にエロいだけじゃダメ」の「単にエロいだけ以外の方向性」の開発が主流ということになっているのだろうと推測される。具体的には純愛とか新伝奇とか活劇的ななにかとかになるんだろうけど。

「痛み分け」と言いつつ「純愛」が主流だと推測しているが、確かに主流ではあるだろう。個々の好みではなく市場的に言えば、恋愛系の方が陵辱系より売れている。これには、コンシューマ機や地上波アニメなど、他の市場に移植しやすいという面もある。

新伝綺」は、いわゆる販促のコピーなので、こだわる必要は全くないと思う。物語の枠組であれば、「(現代)学園異能」だとか、別の呼び方でも構わない。後述のように、重要なのはユーザが参加できるプラットフォームだ。

エロゲ商法

単なるエロコンテンツとしては同人なりダウンロード販売なりの価格帯でいいというかんじになっているので、8,800 円の商業パッケージとしてはそれなりに高級感やボリューム感、あとブランド感とか付加価値で勝負していく、という手堅めの話かもしれない。

開発費の高騰から単品で売っても赤字になるようなタイトルを、(…)リソース活用して販売機会を増やすことで回収するというようなやりかたは色々あるが(…)

アニメの場合、テレビ放送時には赤字だが後でDVDで回収するという方法は普通にある。だがそれは、放送利権・電波利権があるため仕方なく採用しているだろう。エロゲの場合、資金バッファも大きくないし、本体の赤字が見えているが関連商品で回収する、という戦略は取らないのではないだろうか。特に中小ではありえない。確かに、「曲芸商法」だとか、差分を小出しにしてバージョン違いで売る方法*10は多い。それは、ある程度当たった作品の続編・差分を後出しで作るということだと思う。

エロADVに選択肢は不要か

むかし「エロ ADV に選択肢は全部で 6 つあれば十分なんだよ理論」とかの話があったと思うけど、あれも選択肢いっこもない同人タイトル「ひぐらしのなく頃に」のヒットにより議論としては無効になった。

これはネットを見る限り鵜呑みにしている人が多そうなので、否定しておく。ひぐらしは同人ゲームではあるがエロゲではないので、ADV選択肢不要論は、少なくともエロゲにはそのまま適用できない。なぜなら、エロゲはHシーンが重要だが、差分を組み込むために、選択肢よりベターな方法論がないからだ。

特に、「中に出す」「外に出す」といった選択肢は、作るコストが小さい割りに、選択したい欲望が大きいだろうから、今後も作られ続けるだろうと予想する。現にエロゲからどんどん選択肢が消えてしまったということはない。

ただし、選択の複雑性は縮減する傾向がある。ノベルゲームの普及以前は、例えば「同級生」型の移動ADVや、「卒業」型の育成ADVが普通だったが、選択可能な組合せの数が大きい。作る側はデバッグなどが大変になるし、遊ぶ側も攻略なしでクリアできないといった理由からか、しだいに淘汰されていった。

(追記:ひぐらし以前にも選択肢のないADVはあるが、現在の主流にはならないという趣旨なので、論旨には影響ない。)

ヒットを決定するのは誰か

「結局そのタイトルのヒットを誰が決定付けているのか」問題とかがあるか。エロゲーが何の魅力で売れるのかといえばやはりなんといってもそれは絵の魅力だから、いい原画スタッフを抱えるのは前提として、それより重要なのはいい塗りスタッフを確保することだとは言われて久しい。

確かに、大部分のエロゲにおいて、商業と同人を区別する境界線は、形式面では、流通経路の違いであり、内容面では、原画と彩色の分業制による、クオリティの高いグラフィックだろう。「中小以下では商業と同人の垣根はほぼなくなった」というが、商業に近い同人と遠い同人の間の垣根はあると思う。端的に、エロゲはエロゲ塗り*11で持っている。

しかし、二次創作がコミケを席巻するようなオバケ作品については違う。「Fate」などを見るに、「シナリオ>映像>音声>PG」の順に、ヒットを決定する要因になっていると考えている。原画はシンプルでも塗りで化けるし、フルボイスでもスキップされてしまう。もちろん、プログラムにバグがあれば動かないので、プログラマやスクリプタは重要だが、どちらかというと、(システムがまずければ)売れない要因になるから重要なのだろう*12

なんでもそうだがそのタイトルのおもしろさを最終的に決定するのは最終的な実装担当者だという、あたりまえの話ではある。

ところが、その後にはユーザがいるのである。先の順番はプレイヤーが想像力を及ぼすことができる順なのだ。結局そのタイトルの面白さやヒットを最終的に決定付けているのは、客=プレイヤーである。そして、複雑化・高度化したジャンルはユーザの介在が大きくなる。

ネットでは「ハルヒ」(アニメ)や「アイマス」や「初音ミク」などがCGM型の成功例として取り上げられているが、それらより前にコミケ/同人という場でユーザ参加型コンテンツとして成功した例が、「Fate」(や「月姫」)だと思う。「ひぐらし」「東方」も同様だ。

現代で必要なのは作家論よりも読者論で、いわば「読者の作家性」とでもいうべきものを発揮できるような上手いお膳立てが、同人などのプロシューマを巻き込んで流行を創発すると捉えている。

これは、コンシューマのゲームハードがデファクトスタンダードとして、ソフトの命運を左右する(ハードが売れなければソフトも売れない)構造と似ているだろう。「Fate」など二次創作の元になるような作品というのは、ソフト内部におけるデファクトスタンダードなのである。

*1:「見聞きした情報」だから最大公約数的な認識になっているのかもしれない

*2:紙媒体からスキャンするなどして、デジタルに落とさないといけない。また、最初からPCでプレイするのが前提のエロゲと違い、ラノベはPCより紙の方が読みやすい

*3:これ自体はエロゲではないがエロゲブランドのkeyが制作しており、逆輸入でエロゲ版も制作される予定

*4:これもエロゲではないがKeyが制作している

*5:会社は違うが制作者が同じ

*6:表現規制のレベルが違うが、後期サターンで年齢制限のあるエロゲが発売されたり、エロゲ・ギャルゲ専用機と目された「PC-FX」のようなハードがあったり、DVD再生環境があればプレイできる「DVD-PG」があったりするので、PC以外でもプレイできなくはない。だがそれらは主流にはならなかった

*7:ときメモ」はPCエンジン版があるが、やはりPS・SS版で大流行しただろう

*8:3DCGのエロゲ「人工少女」などを出すillusionの場合は、PCの性能向上の恩恵に預かっている

*9:もちろん、同人にも中古市場があるが、流通の規模に対して、作品のタイトルが非常に多いので、望んでいる品を入手しにくい

*10:ちなみに、最初に格ゲーの話が出たついでに言えば、「ストII」におけるカプコンの方法論が既にあったと思う。カプコンはポリゴンに移行してからも、「バイオ」シリーズでバージョン違いを多く出すことになる

*11:色数が少なかった頃であれば、アンチエリアシング

*12:コンシューマの場合は、独自のゲームシステムが求められるためプログラムの要因が大きくなるが、エロゲはエロがメインなのでゲームシステムは保守的になりがちだ