「みくみく」にされちゃうのはむしろはてブのほうではないか

らばQ : 「みくみく」にされちゃうのはむしろ音楽業界のほうではないか

これだけのユーザー側のコンテンツ提供の土壌ができていて、ニコニコ動画YouTubeのような発表の場が揃って来ている。さらにそこから収益をあげるシステム(アフィリエイト等)まで揃ってしまうと、もう「専業のプロ」が出る幕すら無くなってしまうのではないかと思ってしまいます。

いい加減な記事である。例えば、今はコンビニなどでカップラーメンが出回っているが、ラーメン屋の出る幕すら無くなってしまっているだろうか。安くて早くてそこそこ美味いインスタント食品が普及したからといって、専門料理が無くなるわけではない。同様に、初音ミクがニコ動で流行ったからといって、「「専業のプロ」が出る幕すら無くなってしまう」わけがない。だが、食品業界の話だけでは、まだ単なる比喩に過ぎない。丁寧に論証していこう。

アニメ「らき☆すた」のOPテーマ「もってけ!セーラーふく」は累計10万枚以上出荷*1したヒット作だが、ブームになったのはニコニコ動画の影響が大きいだろう。この「らきすた」と「もってけ」を題材にしたMADは、それこそニコ動で山のように作られ消費された*2が、10万枚も売れたのだから、原作が売れなくなってしまったわけでは決してない。ここでアマチュアによる二次創作は、山の頂上を押し上げる麓になっている。ロングテールの浮上によって、ヘッドが売れなくなるわけではない。

coldcupのメモ - 初音ミクに関してニワンゴ・・・もといドワンゴが動いている模様

確かに、ニコニコ動画の市場が大きくなることによって、アマチュアの中にはプロへの道が開ける者も出てくるだろう。その可能性はある。しかしそれは、今のコミケと同じで、てっぺんの一握りがそうなるが、大多数はテールに留まるだろう。そもそも上の記事の場合は、新しいプロが誕生する(のではないか)というだけの話で、プロの出る幕がなくなるわけでは全くない。ここでも、山の裾野を広げているという構図は変わらない。「インディーズ系のアーティストはものすごい数が」いるからといって、てっぺんはもっと高くなる。90年代から二百万枚以上のメガヒットが連発されるようになった*3

今週のave;new | ♯19 ave;new feat.初音ミク(試聴あり)

しかも、別にプロだって初音ミクは使える、というよりも音源ソフトウェアの扱いに関してはより長けている。だから、仮に初音ミクが商業化するような事態があったとしても、その調整はプロが行うことが想定できる。これはコミケで壁クラスのサークルは、プロの作家が同人を兼ねている場合が多いのに似ているだろう。それは、単に商業流通と同人流通という流通形態の違いに過ぎない。注意しておくとこれは、「プロの世界は厳しいんだぞ」的な権威付けでは全くない。そうではなくて、「ニコ動はプロが飯を食えなくする」的な、漠然とした印象が広まることによる、動画界への(どちらかというと悪い)影響を考慮して書いている。

日日ノ日キ - さきほど契約してるCDの流通業者の方とお話したのですが、いわゆるインディーズ系のCDがほんまに危機的状況に陥っているようです

仮にインディーズ系がメジャーに取って変わったとしても、そのときは結局インディーズの中で売れるものが流通していくだろう。もちろん、著作権関連の問題があるし、市場の山が平坦になっていく可能性*4はあるし、一定レベル以下のプロは淘汰される*5こともありえるだろう。だが、アマチュアの数が増えているからといって、何となくプロに取って代わるというようなことはまずない。従って、一番最初の元記事は、何も考えず、深い根拠もなく、「これからはCGMだ」的な、流れに乗ってみた的な、典型的な釣り記事だという結論になるのである。

*1:日本レコード協会から「ゴールド認定作品」に認められた

*2:「もってけ」が流れる「らきすた」のOPは、原作アニメ第一話が放送されて、間もなく再生100万回を突破した。ただスクリプトによる水増し疑惑があるので(これは初音ミクでも何でも同様の可能性がある。ただ最近はある程度運営側で対策が取られているようだ)、注に回しておく

*3:ただし00年代からCDの売上が大幅に落ちている。これはCDレンタルの普及・CD-Rによるコピー・共有ソフトの流行・携帯電話代による圧迫など、色々な要素が考えられる。また、インディーズは流通自体が少ないので、複製流通の影響も少ないと捉えられる

*4:ジャンプの販売部数が最盛期より落ちて、コミケの規模が大きくなるような事態

*5:優秀なフリーソフトが出ることで、中途半端なシェアソフトが売れなくなるような事態