自営にはホワエグ関係ないという誤解

id:ululunさんのツッコミビリティは異常

煩悩是道場 - ホワエグは自分の労働に対する価値生産性決定の問題であって

では「残業代が出なければさっさと帰ればいいじゃない」というのは具体的に誰が言ったのか。桝添氏の発言からsirouto2さんが汲み取っただけの事ではないだろうか。

報道に掲載されていない言葉以外を桝添氏が言ったか言わないかは報道からはわからない。

厚生労働省:平成19年9月11日付閣議後記者会見概要

(…)残業ゼロ法案、これ一発で終わりですよ。だから、私が言ったのだけれども、これは、家庭団らん法案と書きなさいと、家庭団らん法案ね。そしたら、パパ早く帰って、ママも早く帰って、うちで早くご飯を食べましょうよという法案なので、こんなのお前ら残業したって、残業代くれないよといったら、あほらしくてさっさと帰るわけですよ。

以上。この厚労省サイトの大臣の発言を、残業代が出なかったら帰ればいい、という風に解釈したらどう誤読なのか*1。やはりid:ululunさんのブロガーとしての才能は、ツッコミを(入れることではなくて)入れられることにあると思う。

私は自営業をやっているからボーナスも残業代も出ない。同じ仕事を半日で作ろうが一週間寝ないで頑張って作ろうが貰える金額は一緒だ。「これだけの時間が掛かったのだから、これだけのお金をください」という働き方ではない。で、サラリーマンもそうなるってだけの話でしかない。少なくとも自分にはそう見える。

仕事というのは労働の価値に見合った対価が支払われるべきであって、それにかけた時間や大変さはまさにそんなの関係ねーなんである。

もう一つの論点。これもツッコミどころが多い。まあ歩合給・成果賃金へ移行せよという主張なのだろうが、少なくとも現在の時点で、時間は関係ないというのは間違い。なぜなら最初の契約上、時間給労働者には、労働の価値を時間を単位にして測って、対価を支払うわけだ*2。成果が目に見えにくい労働もあるので、時間で測るから非合理だと、ただちには言えない。労働の価値の単位が時間。だから、少なくとも時間給の制度の中で残業代を無くしてしまうのは、「労働の価値に見合った対価」が支払われなくなるということを意味している。

自営にはホワエグ関係ないという誤解

自分の価値生産性は自分が引き上げていく以外に方法は無い。

タイトルの「自分の労働に対する価値生産性決定の問題」が意味不明なんだけど、労働の価値が労働者の生産性だけで決まると考えるのは間違い*3。なぜなら、賃金は労働力の需要と供給によって決定されるからだ。アニメータや声優の賃金が異常に低いのは、生産性が低いからというより、(労働条件を改善しないまま)労働力が供給過多だからだろう*4

さて、ここから先はululunさんの記事への言及から少し離れる。よくホワエグに関するブログの記事などを読むと、「自営業者だから関係ない」「年収○○万円以下だから関係ない」という感想をよく目にする。ことによると、「今まで保護されていたサラリーマンも、これからは自営業者のように厳しい競争にさらされる」などと思うのではないだろうか。しかし実は、これが大間違いなのだ。なぜか。

話を簡単にするため、ごく単純なモデルを考える。製品などの労働成果物を生産するために、時間給労働者のAさんは年収に換算して500万円で、自営業者のBさんも500万円で働き、両者に仕事が来ているとする。Aには会社を通した仕事だから、現実には複雑な計算になるだろうが、そこは説明のためのモデルだから省略する。さて、ホワエグでAの給料の500万円が400万円になったとする*5

となると、「生産性」に違いがなくても、当然賃金が安いAに仕事を頼むだろう。Bは、直接ホワエグは関係なくても、間接的には関係があり、仕事を貰うには400万円まで下げる必要がある。要するに、自営業者は対価を時間で測らないだろうが、それでも、結局残業代が出ないことと同じような意味になってしまうのである。もし、残業手当がサラリーマンを守っているというのなら、それは同じ市場にいる自営業者だって、過当競争から守っているのである

つまり、突然大量の人間がただ働きし始めたら、生産過剰のダンピング競争になってしまう危険性がある、ということだ。もちろん、自営業者のみで完結している市場だとか、その仕事に代替が効かない(「○○センセイの作品なら幾らでも出す」的)なら、賃下げ競争に巻き込まれないが、まあ普通は何かしら影響があるだろう。

それに、残業代の出ない残業が増えた場合、可処分所得も時間も減るわけだから、消費が冷え込めば、内需の産業には結局影響が出るだろう。海外との競争力を重視する経団連には、どうでもいいことかもしれないが、生産過剰の消費減退で不景気になってしまう。だから、「ホワエグ関係ねー」と思いがちだが、市場を鳥瞰的に見ると実は関係があるのだ。

*1:もちろん、「現実に残業代出なかったら、帰るインセンティブになる。」などと色々言い換えているが、大意は依然として変わってないだろう

*2:もちろん歩合給もある

*3:少なくとも近代経済学においては

*4:悪条件でも新人が来たり、海外に仕事を回したりする。このことは現場の質の高い人材不足と矛盾しない

*5:経団連の提言には年収400万円以上とある。また「ホワイトカラー労働者1人当たり年114万円」の残業代が減額されるという試算があるので、極端な設定ではない。また、実際には例えば450万円くらいにして、会社が50万円利益を得るという風になるだろう