医療崩壊と「留保なき生の肯定」論法

医療崩壊表現規制

NaokiTakahashiの日記 - 別に誰がそうだと言っているわけでもないが。

自分の都合で最大限の福祉や医療を求める人よりも、そういう人に「お前の生を留保する!」と片っ端から突きつけて回る人のほうが、ずっと高圧的じゃないかな。
(中略)
一応補足。「留保のない生の肯定を!」っていう今ブログ界隈で流行ってるっぽいフレーズについての話ね。

以前から問題提起はあったのだけれど、

NaokiTakahashiの日記 - 美意識の問題

REV ソフ倫堂々脱退

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20070902%23p1

id:REV氏へ。わざと誤読してる? つーか、そういうレベルで誤読していいのなら、俺は貴方のコンテンツが時々「留保のない医者の肯定を」に見えて仕方ないときがあるんだけど。
(中略)
……カチンときたので書いとく。

ここを口火にやり取りが始まる。

REVの日記 @はてな - 思考中

 とりあえず、私の、今のところの立場としては、皆で自重すれば法規制の少ない世の中でいられるのではないか、ということ。

REVの日記 @はてな - 特別手当てで産婦人科医募集

 私が何か書くと、「留保の無い医者の肯定を!」と聞こえることが判明したのは、極めて有意義だった。でも書く。

NaokiTakahashiの日記 - まだ思考中のようなので突っ込むのもどうかとは思うけど。

そもそも、ソフ倫脱退するか性倫理に基づく表現規制を追認するか、の二者択一を迫るのがおかしい。性表現規制全般に原則・理想としては反対しつつ、とりあえず今安全に商売をするための方便として、シールを貼ればお上が納得するんなら別に貼りゃーいいんじゃねーの(…)

NaokiTakahashiの日記 - 医者の話

医療上のアクシデントに対して不当に厳しい扱いをするから医者のなり手が減ってるんだ、という立論をしたいのであれば、するべきは、医療事故のうちどの辺までが賠償なりなんなりすべき医療過誤で、どの辺までが仕方のないものなのか、という線引きであって、医者はこんなに大変なんだよというアピールでも、お前ら医者がいなくなってもいいのかという脅しでもないと思うんだよね。

id:NaokiTakahashi氏とid:REV氏の論争を観戦。部外者ではあるけれども、両者の発言を参考にしながら、以下論を組み立てる。

「留保なき生の肯定」とリスク社会論

医者を肯定するか患者を肯定するかという二項対立ではないと考える。もちろん、医療過誤の線引きの問題は避けて通れないだろうけれども、ここでは違う視点から見る。まずそもそも、素人が無知だから無理難題を要求するという構図は違うと思う。仮に国民が医療問題を勉強したとしても、(問題外のもの以外は)要求はそんなに変わらないのではないか。医療関係者だって、もし自分や家族が医療を受ける側に回って致命的な事故が起きたときに、専門家で現場をよく知っているからといって、何も言わずに引き下がるのか。

医療崩壊の問題は「リスク社会」の問題だと捉えている。確かに「留保なき生の肯定」を訴えるだけでは現場が回っていかないだろうけど、それは全体から俯瞰した視点で見ているから言えるのであって、実際に患者側に回ったら、誰だって留保されたら困るのではないか。統計的大数の視点から見るのと、個人から見た視点は異なるので、「患者、自重しろw」と言われても、構造的に似た振る舞いを繰り返すしかないだろう。ただ、患者は仕様がないが、報道に対しては被害者感情によって正当化するだけではなくて、(それが嫌われ役だとしても)全体的な問題提起をすべきだ、とは思う。

ここで、モラルの低下に還元できない面があることは押さえておきたい。例えば、終末医療の領域は、昔の人が自重していたわけではなくて、単に技術的に実現していなかったので、問題として現れていない。著作権なども昔はなかった。要するに、社会システムが複雑化して、利害関係の調停が難しくなった。そのシステムの歪みが現場にしわ寄せされているのだろう。だから、医者が正しいか患者が正しいかというのは個々のケースでしか言えなくて、一般的に自重しろと言われても、そう行動するインセンティブが個にはない。つまり、個と全体の利害対立の問題なのである。

だから、私の立場としては、全体的な問題が存在するのはその通りなんだけれども、個人に還元されても難しいだろうなと思う。確かに、そうしなければ規制が増えることになり、権利の主張と規制緩和の両立が問題になる。ただ、全体のスケールが見渡せないレベルでの自重は出来ないと思う。例えば、学歴社会を緩和するために、明日のテストは点数を取るな、と言われても納得できない。だから、例えば、救急車をタクシー代わりにされるなら、(一定の期間内で)最初の一回は無料だけど、二回目から料金を取るとか、最終的にはシステムの問題はシステムの次元で解決することになると思う。