萌魔導士アキバトロン(21)

非常灯の微かな光を頼りに暗い廊下を進む。保健室を飛び出して来た志朗は、朝まで眠れる場所を探して歩く。既に深夜の零時を回っていた。彼は早朝図書室で本を読む習慣があるので、家へ帰るのはこうなっては面倒臭い。授業の教科書が机にないが、そもそも全教科の教科書は暗記してあるから、全く問題なし。それに、また眠って戦闘になったときのために、ある程度の対策を練ってから眠りたかった。いつも後手後手だ。


学園内の案内板で洗面施設を見つけた。コインランドリーで制服を洗濯している内にシャワーを浴びる。喉が渇いたので自動販売機でジュースを飲む。ろくなのがない。仕方なくバナナオレを飲むと、意外に美味かった。糖分を補給して脳が冴える。しかし、情報が少なすぎて、夢戦闘の有効な対策は立てられない。モップ掛けは無理そうだが、銃を借りて撃てないか。だが下手な鉄砲で弾の無駄使いになるなら、逃げ回った方がマシかもしれない。それにしてもさっきのはなんだったんだろう。まだドキドキする。


とりあえず昼間教わった仮眠室へ足を向ける。部屋の内部は完全な暗闇で広さも分からない。覚束ない足取りのまま手探りで歩く。二段ベッドが並ぶ。どれも空いているので、近くのものに潜り込む。シーツの感触が心地良い。耳鳴りがする位に完全な静寂。密閉性が高いので家よりも静かだ。すぐに眠気が来た。しかし、音。フワ、という程度だがカーペットに何か落ちた。近付いてくる。足音だ。このベッドの前で止まる。息を潜めた。


うおっまぶしっ
ベッドについていたライトを照らされ、急に明るくなる。
「なにしとんねん」
聞き覚えがある。ロンの声だ。体操着にブルマという格好で目の前に立つ。逆光で表情はよく見えない。
「女子の仮眠室やで。夜這いかいな」
「ご、ごめん。間違えただけ。すぐ出るから」
しかし、起き上がろうとする肩を押さえられた志朗は、しばらく固まったままでいた。彼女はいったんドアを施錠した後、隣のベッドに座った。背をピンと伸ばして座れず猫背になる。
「まあ、ウチしかおらへんからな」
「でも」
「ええやん」
辺りは奇妙な雰囲気に包まれる。


   (続)