萌魔導士アキバトロン(16)

志朗は目を見張った。見慣れているはずの萌がメイド服を着ただけで、魔法を掛けたように神秘的な雰囲気に見えてしまう。ペチコートで膨らんだスカートの裾が歩くたびにひらひらと舞う。萌の彼氏になる奴は、この見かけだけに騙されてしまうかもしれない。
「……」
なぜメイド服を着ているのか。それは学園内にあるメイドカフェで昼だけバイトしているからだ。メイドカフェはやりすぎだと思うが、学園公認で短時間で働けて通勤時間がゼロなのは、ある意味合理的ではある。常に監視下にあるので外でバイトするより安心だという見方もできなくはない。そういえば何か聞き逃したような。
「え? なに?」
「気をつけて。もう夢の中に入ってるから」
「!!」
何かがおかしい。いつの間にかシーンとしている。さっきまで昼飯を食っていたのに何でもう寝てるんだ? 屋上に行ったり仮眠室に潜り込んだりする間の記憶が飛んでいる? しかし、何が起こっても夢なら大丈夫のはずだ……。そのとき窓ガラスが割れる音が静寂を破った。サッカーボールでも飛んできたのか。だが何か違和感がある。恐る恐る窓に近づく。
「ちょっと、ボクの服を引っ張らないでよ!」
「ご、ごめん」
弱虫だと思っていたのに。いつの間にかここには志朗と萌の二人しかいない。割れた窓の近くで何かが動いている? なぜかぼんやりしていてよく認識できない。最初は廊下の模様か影のように見えた灰色の塊が、のっぺらぼうの人形のように立ち上がった。危機感がある。たたずんでいるだけの物体だが、嫌な気配が神経に直接伝わってきて仕方ない。
「逃げないのか……?」
「ここで戦うよ」
「マジか!?」


   (続)