萌魔導士アキバトロン(7)

「俺は何が何だか……とりあえず、手当てをありがとう」
「申し訳ありません。」
夕日が差し込む和室の寝室。制服を着たままの二人は、礼と詫びですれ違う。態度が軟化してるだけでも良好だと思った。彼女がその気ならきっと簀巻きで神田川にドボン。納得しないが感情のまま行動もしない。でもなぜあんなことを?
「あれは貴殿を試すため」
「何のために?」
「それはまだ……」
理不尽。志朗は思う。金持ちの御嬢様なんだろうが、道で刀を振り回していいのか?
「あの場所は私有地なので」
そうだったのか。萌を置いていけず自転車に乗れないので、つい急いで近道してしまった。
「多少のことは……」
怖い。もみ消せるのか。やはりご機嫌を損ねたら、コンクリ履かされて東京湾にドボン。
「今夜はお泊まりを……」
「家に帰りたい」
「左様ですか。残念です」
なぜ照れる。
「試験の結果は?」
「まずまずといったところ」
絵理は再び凛とした表情に戻る。目元が涼やかだ。少しもったいないかも。またいつか日本刀なしで話せるかな。
「また学園の方でお会いしましょう」
迷路のような長い廊下を案内されて裏門から出ると、同じ自転車が用意されていた。屋敷沿いに走りながら、昔から見た覚えがある長い壁を鑑賞する。都心に広い敷地を持つ。やはり御嬢様だ。最近は昼が長いのにもう暗い。あの蹴りでどれだけ眠ってたんだろう。ふいに不安になった。肋骨折れてないか。まあ大丈夫……なはず。
ようやく家に帰る。一安心だ。階段を昇って自分の部屋に戻り、大の字になる。今度は狭い見慣れた天井を見上げて思う。萌はどうしているだろう。


   (続)