萌魔導士アキバトロン(1)

プロローグ

「レモン」
夢の中ではそう聞こえた。眼球がびくびく動く。色鮮やかな衣装の女の子たちを脳か網膜に映す。空を飛ぶ。解像度の低い視界は女の子に接近していく。やがて映像の中で唇が触れるかというところで、日ざしが瞼ごしに朝を伝える。夏が近く朝は早い。ベッドの中で眠気を醒ます伸びをしてから、視線が宙にさまよう。変な夢だ……。しかし、不思議と既視感を覚える光景だった。

新学期

志朗は自転車で秋葉原へ向かう。今日から私立萌理学園一年生。公園を曲がると日光を吸って生い茂る草木の匂いがした。門をくぐるときに少し緊張したが、建物に圧倒されているだけと考え、ずかずか入っていく。迷いながら図書室まで来る。この時間では、図書委員しかいないようだ。三つ編に眼鏡。並ぶ棚から比較的新しい本を適当に五冊取り出し眺める。紙の感触が指先に心地よい。ページをめくるうち、背後にまなざしを感じる。同じ女子の制服を着た萌が来た。リンスの香りが漂う。
「よく来れたな」
「ひどい、これはひどいよ」
「甘い」


   (続)