2066年、(日本)人類は過労の炎に包まれていた
コラム - 現代の雇用情勢・第22回【社会】
今を遡ること60年前、残業代無給が合法化され、また、残業時間無制限、24時間労働制、有給休暇の廃止、過労死の自己責任化という立て続けの制度改正に伴い、企業の社員は社内の簡易宿泊施設での生活が常態化したため、夕方に会社員が一斉に仕事から帰宅するという光景は今では珍しくなった。
会社に常駐するので住宅を手放す者が多く、そのため、リストラされた際に帰る住居がなくなり、低賃金の非正規雇用で、不本意であっても再契約するいわゆる「会社内難民」「ホームレス社員」が続出した。また、家族との面会を求めた声が絶えなかった。
しかし、この残業を基本とした労働体制は、欧米を中心とした諸外国から長年に渡って「人権を侵害している疑いがある」と批判されていたため、政府はこのたび実験的に、配給制の「帰宅券」を発行することになった。この帰宅券を獲得するために、労働者の家族たちによって、省庁の窓口に10kmにも渡る長い行列ができ、徹夜組は珍しくなかった。
この行列を監視するために警官隊が出動した。また、帰宅券はネットオークションなどに出回り高値で売買され、このうち行列に並んでいた中国人グループが売買したものもあると見られている。この件に関して労働問題の専門家は、「半世紀前には、定時退社は権利として認められていた。更なる休日の増加が待たれる」とコメントした。
- 他関係各所の声
- 「週休0.5日制の導入は時期尚早。今回の発券の効果を調査して検討する」(労相)
- 「今回の帰宅による経済損失は全国で2000億円と算出した。誠に遺憾である」(経団連)
- 「働いたら負けかなと思っている」(24歳・ニート)
- 「働いたら負けかなと思っていた」(86歳・ニート)
- 「入社以来家に帰ったことがなかった。娘の顔を見ることができて嬉しい」(36歳・会社員)
- 「家に孫が帰ってきた。(60年前の)拉致被害者と家族の再会を思い出した」(84歳・無職)
- 「家帰るってレベルじゃねぇぞ!」(年齢不詳・行列に並んでいた一人)
(2066/11/11)
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