映画『CUBE 2(キューブ・ツー)』 ――時空を超える超立方体への進化
概要
- 出版社/メーカー: ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
- 発売日: 2003/12/05
- メディア: DVD
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情報
- 監督: アンジェイ・セクラ
- 脚本: ショーン・フッド、アーニー・バーバラッシュ、ローレン・マクローリン
- 出演: ケリー・マチェット、ジェラント・ウィン・デイビス、他
- 製作国: カナダ
- 公開: 2003年
- 上映時間: 95分
紹介
一瞬先も読めない斬新なストーリーで、カルト的な人気を得た前作。このパート2は「各面に隣との出入り口がある謎の立方体(キューブ)の部屋」という基本設定は前作と同じで、新たな登場人物たちが決死の脱出を試みる。今回は、キューブを設計したと思われる兵器メーカーの存在が浮かび上がり、そのメーカーの関係者とおぼしき人物も登場し、謎を深めていく。
前作より進化したのは、各部屋の「罠」。侵入者をたちどころに殺してしまう仕掛けが、CGを駆使した映像で展開していく。また、時間のスピードが変わり、侵入した者を一気に老化させる部屋。あるいは、隣を覗くと、自分と同じ人間が別の時間を過ごしているのが見えるなど、「時間の狂い」がフィーチャーされているのもポイントだ。現実と非現実。現在と過去、未来。その辻褄合わせをしながら観る楽しみもある。キューブの存在に企業の陰謀を予感させ、物語に説得力を持たせたのも進化と言えるが、前作が多くのファンを惹きつけた“漠然とした不安感”が薄まったのは事実。俳優たちの演技も、やや大げさなのが気になる。(斉藤博昭)
物語(あらすじ)
(注意:以下、ネタバレあり)
あるとき、白い立方体の部屋に、人々が閉じこめられた。そこは、同じ形状の部屋が、数多く隣接している。立方体の集合体で作られた、巨大な立方体(キューブ)になっているのだ。
ここからは、各部屋のハッチを通じ隣室へ移動して、出口を探すしか脱出方法がない。しかも、部屋にはときどき、殺人トラップが仕掛けられている。そんな極限状態のもとで、人々は絶望的なサバイバルを繰り広げる。
人々は協力して、一つ一つ謎と罠をクリアしてゆく。だがやがて、ひとりの精神が狂い出す。残された脱出のヒントは、「60659」という謎の数字。
はたして、このキューブから、無事に脱出できるのか……?
解説
時空を超える超立方体への進化
続編ということで、「Cube キューブ」から「Hypercube ハイパーキューブ」に進化した。どう変わったのかといえば、部屋によって時間が異なる、という仕掛けがある。空間が限定されているぶん、時間の広がりを描く。これは面白いアイディアだ。
続編なのでひねったわけだが、時間の操作だとは、予想していなかった。部屋ごとに時間の流れが一定していないことで、たとえば死んだはずの人間が再来したりだとか、奇怪な現象が起きていく。見終わったあとまで、不思議な印象が残る。
しかし、SF的には面白い題材ではあるが、ホラー的には前作のほうが優れている。というのも、初代のキューブは、視聴者が直感的に理解できるものだった。金網の刃でサイコロのような肉塊になってしまうだとか。つまり、トラップが恐怖に直結しているのだ。
設定が複雑化・高度化したからといって、必ずしも前より優れているとは限らない。本作は、時空がバラバラだという「不思議さ」が、もう少し「怖さ」に結びついて欲しかった。殺人トラップも幾何的な形状だったりして、全体的に「リアル」というより「バーチャル」な印象だった。
ゲーム的な設定も、詰めの余地が残る。たとえば、時間がバラバラに流れているのに、最後には統一されるというメカニズムが分からない。前作の部屋が移動する設定も、多少は無理を感じたがイメージできた。今回はイメージできないので、納得できる設定や説明が欲しかった。
もっとも、非凡な初代と比較される、2作目の宿命も感じる。監督も交代しているし、初代と同じものを求めるのは難しいだろう。『キューブ』シリーズを意識せず、本作を単体で評価すれば、面白い。
面白いと感じたのは、たとえば、殺人鬼の時計が増えていくシーン。時間を超えて何度も殺す、という殺人鬼像は新鮮だし、見せ方も秀逸だ。殺人鬼の本人が何度も蘇るとか、さらなる発展の余地もあるだろう。
キューブの外部に到達する
物語の最後、前作では描かれなかったキューブの外部に、ついに到達する。時間という題材は今回だけに留められるが、キューブ外部の提示はシリーズの方向性を左右するため、このラストは賛否が分かれそうだ。キューブの外部を描かないまま、続編を作ることもできたし、そちらのほうが無難な選択だろう。
本シリーズにおいて、キューブの外部を描くことは、じつはシリーズのジャンルを変えることと同じくらい重大なのだ。じっさい、3作目の『CUBE ZERO(キューブ・ゼロ)』は、「ソリッド・シチュエーション・スリラー」だけではなく、別ジャンルの話が入ってきている。
なぜ、キューブの外部を描くことは、たんなる場所の移動だけではなく、ジャンル移動を伴うのか。それはたとえば、ミステリで犯人視点から描くと、倒叙形式になるようなものだ。あるいは、ホラーで幽霊は姿が見えるまでが怖い、といった話と関連する。
もっと言えば、舞台の「舞台裏」を見せるような、視座の移動があるのだ。外部を見せてしまうと、後戻りできなくなる。じっさい、『ZERO』を見てから、初代を見直すと、物語や意味が与えられるために、カフカ的な不条理感が減ってしまう。
初代には、不条理感だけでなく、想像する余地があった。だが今回、キューブの存在理由は、陰謀論的な理由に落ち着いた。その陰謀論自体は、わりとよく見かけるものだが、本作の場合はキューブとの関係が問題になる。
陰謀論的な外部の組織を描いたために、なぜ、その陰謀論はキューブで実現しないといけないのか、という疑問が浮上してくる。たとえば、あのような大規模な施設*1を作って、どのような利益があるのか、という素朴な疑問だ。人体実験や心理実験だとしても、ああいう立方体である必然性はない。
逆に言うと、次回へのヒキになっている。単純にキャラクターとトラップを交換するだけではなく、キューブがどうなっているのかまで続編で明かす。すると、見ないと分からないので、興味を惹く。これはベタだが、強いヒキだと思う。
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*1:初代について言えば、部屋の数を考えると相当大きいし、それを駆動させるのも大変そうだ