『うみねこのなく頃に』EP7・朱志香犯人説

概要

 07th Expansion 製作のPCノベルゲーム『うみねこのなく頃に散 Requiem of the golden witch』(以下「EP7」)の仮説を提出する。「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は朱志香という説(以下「朱志香説」)だ。


警告:以下、『うみねこのなく頃に』EP7の内容を明かしています。未見でのネタバレを嫌う場合、同作品をプレイした後にお読みになることを推奨します)

前提

 まず、「EP7」をプレイしていれば、「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は紗音であるという説(以下「紗音説」)を思い浮かべるのが普通だろう。プレイすれば容易に理解できることなので、紗音説は説明しない。また、紗音・嘉音同一人物説についても、ネットですでに考察されているので、ここで改めて検証することはしない。

 だが、紗音説が最有力なのは自明なので、ただそれを追認するだけでは面白くない。そこであえて、紗音以外の可能性を探ろう。理御はすでにライトに指名されて、残る犯人候補には、朱志香、嘉音、(上位世界の)戦人などがいる。ここでは、朱志香ひとりに絞って考察しよう。

立論

 では、「EP7」「ベアトリーチェ殺人事件」の犯人は朱志香であるという説(「朱志香説」)を立てよう。

 この朱志香説の核である、ベアトリーチェは朱志香と同一人物だという発想は、もちろん出題編の頃からすでにある。ただ、「EP6」「EP7」が紗音・嘉音同一人物説に有利な展開になっているため、ここにきて再浮上させることの意味もある。

 「EP7」には、紗音説を裏付けるかのような記述が多々ある。たとえば、理御と紗音・嘉音の間に面識がないだとか、紗音・嘉音が同時に存在しないといったものだ。紗音=嘉音=理御=ヤス=クレル=ベアトリーチェが同一人物なら、それを説明できる。

 しかし、理御=紗音=嘉音と、朱志香=ベアトリーチェが、別系統だという解釈もありうる。これなら、理御と紗音・嘉音の関係を説明しつつ、ベアトリーチェ殺人事件の犯人を朱志香にできる。

 「EP7」の前半ではウィラード・H・ライトの視点で、後半ではヤス=クレルの視点で物語が進行する。この後半部分に、紗音・嘉音と朱志香・ベアトリーチェの視点が混在している、という叙述トリックがあるのではないか。

 そこでは、ベアトリーチェは朱志香だったか、もしくは、紗音と朱志香の間で、ベアトリーチェ役が継承、あるいは共有されていた。さらに、朱志香は空想上の「ヤス」になる「使用人ごっこ」を止めて、魔女になったという展開もありうる。

 これなら、福音の家関連の事情など、紗音説でなくても説明できる。朱志香は六軒島に住んでいたのだから、煉獄の七杭のモデルになった使用人を見ているだろうし、紗音から話を聞くこともできただろう。六軒島の怪談も知っている。

 また、お茶会の進行で、朱志香が霧江に顔を潰されているため、入れ替わっていて実は死んでいないという展開もありうる。朱志香説を紗音説の対抗にしているのはそのためだ。

検証:「貴賓室の怪談」

 「EP7」「貴賓室の怪談」の章にあるが、朱志香は「もうひとりの自分」を生み出し、仮病でセキをするフリをしていたから、「マリアージュ・ソルシエール」でいうところの「魔法」が使えてもおかしくない。

 ここで、真里亞はベアトリーチェを、「精霊」のように形而上的な存在だと解釈しているので、途中から演者が交代しても疑問に思わない。「今の妾は魔力が弱いので、朱志香の身体に憑依しないと、姿を現せないのであるぞ」などと説明すればよい。

 さて、「EP7」には、紗音説の方が自然な部分がたくさんある。しかし逆に、朱志香説の方が説明しやすい部分が、少なくとも1箇所ある。

 これも「貴賓室の怪談」の章で、朱志香が午前2時頃に貴賓室へ忍び込むと、真里亞から以下のような内容の電話が掛かってくる。

「………もしもし?」
『うー! ベアトリーチェ、こんにちは…!』
「え? ま、……真里亞ッ…?!」
「も、もしもし…?!」
『この間は、楽しいお歌を聞かせてくれて、ありがとう。だからお返しに、真里亞もベアトリーチェに歌うね。習った新しいお歌を歌うね! うー!』


 ここで注目すべきは、朱志香の声を聞いても全く意に介さず、ベアトリーチェに対して喋っているかのような、真里亞の態度である。

 すでに、朱志香と真里亞は、ベアトリーチェの存在をめぐってケンカしている。朱志香はベアトリーチェの存在を認めていない。だから、真里亞は「うー! ベアトリーチェじゃない!」という反応をする方が自然だ。

 これは、この日以外の午前2時の貴賓室では、朱志香のもうひとりの人格がベアトリーチェを演じていた、という証拠ではないか。

 この後の真里亞に対しては、後で朱志香ベアトか紗音ベアトが「すまぬ真里亞よ。あの日は、魔力がちと足りなかったゆえ、朱志香の意識を奪えなかったのだ」などとフォローしておけば済む。また、朱志香からの質問に対して、真里亞は嘘をついたのだ。

 ただし、朱志香が言うように、「真里亞の声は、予めカセットテープにでも録ってあって。それを午前2時ちょうどに電話して再生ボタンを押した」という解釈でも、一応のつじつまは合う。

 しかし、それだと釈然としない部分が残る。もし、使用人たち(おそらく、源次、熊沢、紗音)の偽装工作であるとしたら、そもそも朱志香に対して真里亞の電話を聞かせる意味がよく分からない。

 上のように反応が不自然だから、テープであることがすぐにバレてしまう、と気がつきそうなものだ。「ベアトリーチェ?」という一言だけ流して電話を切る方が、上手く騙せるだろう。

 ただ、犯人(もしかすると作者)が、単にそこまで深く考えなかった、という可能性も残る。あるいは逆に、「EP1」ラスト付近の密室内で、真里亞が歌を歌っていたのはテープの可能性がある、ということを示唆するためのものか。

課題

 問題点も明かしておくと、朱志香説では不自然な点も多々ある。たとえば、出生関係の話と金蔵との会話、1986年だから惨劇が起きた謎、といった辺りは紗音ベアトの方が通りがよい。

 戦人との関係に関しては、朱志香と紗音のどちらでもおかしくない。だが、この説の弱点として、家出した戦人から手紙をもらうシーンの整合性がある。朱志香がすでに手紙をもらっているので、視点人物は紗音であると考える方が自然だ。

 しかし、前述のように視点人物は朱志香と紗音のふたりが混在しているか、幻想描写による現実の隠ぺい・改ざんが行われていた(金蔵の黄金横領のように)、と解釈すれば解決する。

 これは、「EP7」は赤字が少ないので、幻想描写を多用したと想定すれば、解釈の余地がかなり残る、ということでもある。さらに裏返せば、「EP8」までネット上での推理を絶やさないために、作者の竜騎士07氏があえて余地を残したとも取れるだろう。

 また、「EP1」〜「EP6」までの検証がまるまる残っている。しかし、ベアトリーチェの設定が全EP共通とは限らず、紗音ベアトと朱志香ベアトで両方のパターンが存在する可能性もある。

 さて、『うみねこ』では作中作の構造によって、地の文で偽の記述(「幻想描写」)ができるようになっている。真であることを保障された赤字の記述による禁止を回避できれば、どんな仮説も最低限成立する。

 『うみねこ』の考察にあたっては、解の一意性にこだわらない。赤字(の禁止と矛盾するもの)以外は全部正解、というスタンスで臨む。第1作で「面」の推理という記述があり、その方が作者の意図にも沿うだろう。

 他の説が成立する、他の説のほうが有力である、というだけでは、この説を覆したことにならない。次回作の「EP8」では、紗音説が完全に確定するかもしれないが、それまでは仮の正解が複数あっても構わないはずだ。

 結局、紗音説が最有力だろうが、「EP8」までに最後のどんでん返しがある方が面白いので、あえて朱志香説を提示してみた。

関連作品

うみねこのなく頃に Episode1(上) (講談社BOX)

うみねこのなく頃に Episode1(上) (講談社BOX)

うみねこのなく頃に

うみねこのなく頃に