なぜアニメの男主人公は弱体化するのか
概要
なぜ、アニメの男主人公は、主体的でなかったり、受動的だったりと、弱体化していくのか。
結論から言うと、熱血主人公の巨大ロボットものから、美少女ゲームやライトノベルの原作物へと、アニメがシフトしたからだ。
だがそれでは、美少女ゲームの男主人公が、すでに弱体化していたのはなぜか。以下、考察していこう。
なぜ美少女ゲームの男主人公は弱体化するのか
そもそも、ラブコメブームの時代から、男主人公の弱体化は進んでいた。そこに、戦闘美少女やセカイ系が加わり、女尊男卑の風潮がオタク・コンテンツに広まっていく。
そこでは、巨大ロボットものの熱血的主人公よりも、受身な主人公の方が好まれる。どのメディアでも、美少女コンテンツは、美少女が真の主役だ。
そのため、主人公は主人公でも、英雄的な主人公ではなく、狂言回し的な主人公になりやすいのだ。
しかしさらに、美少女ゲームの時代に入ると、そこにノベルゲーム固有の構造が影響してくる。ひとつは、選択分岐とマルチエンディングだ。
マルチエンディング型の美少女ゲームでは多くの場合、各エンディングで主人公が各ヒロインと結ばれる。そこで、各ヒロインのカラーと調和させようとすると、自然と主人公が無彩色=無個性になっていく。
ここがラブコメの時代と少し事情が違う。というのも、マンガやアニメなど一本道で進むシナリオの場合、結ばれるヒロインは1人であり、彼女のカラーと補色=正反対の性格になるような設定にもできるからだ。
また、主人公の行動はプレイヤーが選択するため、主人公の性格が「こういう場面では、こういう風に行動する」と決まっているようだと、整合性を取って構成しにくい。
もうひとつは、たとえばアニメと異なり、ノベルゲームは主人公が画面に映らない。基本的に主人公の一人称視点に固定されるため、髪が長くて目が隠れているような、透明=匿名的な存在になっていく。
もし、逆に存在感が強い主人公にしてしまうと、プレイヤーがヒロインを見る視界が不良になる。たとえると、色メガネが掛かるような感じだ。
さらにもうひとつ、一般的にアニメよりノベルゲームの方が視聴時間が長い。したがって、アクの強い主人公だと、振り回されて疲れてしまう。そこで、落ち着いた色になる。
そのようにして、美少女ゲームにおいては、より無味無臭の存在になっていく。そして、近年のアニメは、オリジナルを製作するよりも、美少女ゲームやライトノベルを原作にする方が多い。だから、アニメでも男が弱体化するのだ。
ちなみに、ライトノベルの主人公は、美少女ゲームよりかは、シニカルになる傾向が見られる。しかし、ヒロインに比べれば無個性、という大きな枠組では変わらない。
だがここでさらに、原作からの移植にあたって、アニメ固有の問題が出てくる。ちょうど、ここまで述べてきた条件が、ひっくり返った形だ。
ひとつは、ノベルゲームのようには、プレイヤーが介入して選択肢を選べないこと。もうひとつは、主人公が画面内に映るため、否が応でも視聴者の意識に上ること。さらにひとつは、尺が短くなるため、主人公が能動的でないと、物足りないことがある。
そのため、アニメにおいては、原作よりさらに弱体化している部分が浮き上がってしまう。
その事情は制作側も承知しているだろうが、原作への忠実さをユーザから求められているため、仕様がない部分もある。
付論:なぜ『School Days』の伊藤誠は、叩かれるのか
上記に加えて、少し特殊な事情を持つ作品に、アニメ化されたエロゲ『School Days』がある。ネットにおいては、同作の主人公・伊藤誠の不誠実さを、ユーザが非難する場面が目立つ。
だが、誠の性格設定は、かなり意図的なものだろう。というのは、ヒロインの桂言葉と西園寺世界、そのどちらを選ぶのかが、主題的に扱われているからだ。
誠が流されやすい性格だから、どちらのヒロインに傾くかが、ゲーム的な焦点になる。じっさい、言葉と世界と、どちらの好感度が高いか、専用のゲージが表示されるくらいだ。
しかも、同作ではアニメーションを取り入れているため、誠が画面に映っており、プレイヤーが意識せざるをえない。
だから、原作の時点で、誠はすでに嫌われていた。少なくとも、「いやっほーぅ! 伊藤最高ー!」などという声は、あまり聞かれなかった。
だが、誠が叩かれたことは、失敗ではないと思う。ある程度ヒロインに共感しているから叩く面もあるだろう。言葉か世界に深く思い入れてしまうように、巧妙に作られている。
そもそも、誠の優柔不断は、ヤンデレの強固な意志と対になっている。誠が流されるほど、ヒロインがヤンデレになっていく。
もし、誠が誠実なのにヤンデレになっていたら、単にヒロインが悪いということになり、ヒロインに共感できなくなってしまう。つまり、「誠死ね」抜きに「言葉様」の人気はない。
じつは、誠はハーレムの王様のように見えるが、視聴者に対するスケープゴート、叩かれ役でもあるのだ。その構図が極まった結果が、あの「Nice boat」なのである。
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