ノベルゲーム演出の立ち絵と一枚絵での違い4
概要
一般的なノベルゲームでは、立ち絵(+背景)と一枚絵と、グラフィックが2パターンに分かれている。今回は、立ち絵と一枚絵の使い分けの応用例を紹介しよう。
立ち絵の演出
ここまでで語り落とした、立ち絵の細かい演出を見てみよう。まず、上下左右の移動や拡大縮小といった、アフィン変換(単純な幾何的操作)だけでも、人物の行動を示せる。
たとえば、人物を上下に揺らせば、歩行した様子を示せる。拡大縮小すれば、プレイヤー視点に近づいたり、遠ざかったりする。人物を画面端に置けば、プレイヤー側をうかがう様子を表せる。
『マブラヴ』やぱれっとの作品では、背中を見せた後ろ向きの立ち絵があった。これを配すことで、後ろ向きの人物が向く方を注目させたり、空間を広く見せるなど、色々な効果があるだろう。
マンガ的演出をほどこした立ち絵も見かける。たとえば、勾玉型をした大きな汗のような漫符(漫画的な記号表現)をつけて、困った様子を描き表すといったことだ。
LittlewitchのFFD(フローティングフレームディレクター)システムのように、さらにコマ割りのようなマンガ的構成をノベルゲームに取り入れた例もある。
裸の立ち絵というのもある。エロゲでは、立ち絵が日常シーンで、一枚絵がHシーンと使い分けるのが通例だ。だが、裸の立ち絵によって、その境界を曖昧化できる。
たとえば、『SEX FRIEND』における裸の立ち絵は、性的に奔放な「セックスフレンド」というテーマに沿う。さらに、ヒロインの日常を描いた一枚絵に、裸の立ち絵があるようなキャラだからこその、独特の叙情性を与えられる。
立ち絵とウィンドウの顔アイコン
立ち絵が動かず、ウィンドウの顔アイコンが変化する、という演出のノベルゲームもある。だが、少なくとも商業エロゲで、このタイプの画面構成は、主流にならなかった。
なぜか? それは、ポージングによる視覚情報が、意外と多いからではないだろうか。
ポージングと表情は別々に組み合わせられるから、組み合わせたバリエーションは、顔アイコンの数よりも、まず多くなるはずだ。
さらに、ポーズには、表情とはまた違った心理的意味がある。たとえば、キャラクターが怒っているときに、両手を上げたポーズと下げたポーズでは、意味あいが少し違う。両手を上げたときは、怒りが外側に向く。
具体的に言うと、「あなた(主人公)が悪い!」というときは上げて、「(私が)あんなことを、しなければよかった!」というときは下げる。逆にするより自然だろう。
そのように、ポーズでキャラクターの心情や態度を示せれば「彼女は自分自身に怒っているようだった」などという文章描写が省ける。
また、ウィンドウが出るということは、その上は空いているだろうから、上側の画面に動きがない、画面全体を有効利用できない、ということでもある。
したがって、立ち絵を動かした方が、情報の伝達効率が良いと考える。ただし、目元のアップやSDキャラのカットインは、そのこととは別に有効だろう。
ノベルゲームでは多くの場合、長時間のプレイが前提になるため、プレイ時間の多くを占める日常部分を、退屈させないように立ち絵で演出する必要があるのだ。
立ち絵と一枚絵は両方必須か
近日発売される『ゴスデリ』では、立ち絵を全く使わないらしい。
べつに、『ゴスデリ』が立ち絵なしエロゲの最初というわけではない*1。しかし、一枚絵が活きるような演出に凝っている。
また、この逆に、『ひぐらしのなく頃に』*2を筆頭に、同人ゲームやフリーゲームには、一枚絵がないノベルゲームは山ほどある。
実作例があることから、立ち絵と一枚絵は、必ずしも両方必須というわけではないようだ。ただし、偏ることの得失もあるだろう。
全て一枚絵よりは、全て立ち絵の方が、組み合わせられる分、作業量が少なくなる。その一方で、一枚絵の方が、映像的な迫力がある。
また、全て一枚絵にする場合、日常的な物語だと、同じような一枚絵が増えてしまって、非効率になるだろう。非日常的なシーンが続くようなシナリオの方が効果的だ。
アニメーションの導入
エロゲでは『VIPER』シリーズ、『GREEN 〜秋空のスクリーン〜』、『School Days』、ギャルゲでは、『NOeL NOT DiGITAL』、『ダブルキャスト』など、アニメーションを取り入れた作品もある。
特に『NOeL』は、独自のシステムを採用していた。立ち絵*3がアニメーションするだけでなく、リアルタイムで返答を選択*4する。
文章を表示するかわりにフルボイスで喋ったり、主人公側が喋らないこともあり、一般的なノベルゲームよりも、「いま、プレイヤーとキャラクターが直接会話している」という感覚が強い*5。
最近は、立ち絵や一枚絵がアニメーションする例もある。やはり多いのは、目パチ口パクだろう。
しかしたとえば、ティンクルベル『つん★デれ!〜ぷにゅぷりEX〜』では、同人流通の作品にもかかわらず、立ち絵で本格的にアニメーションする。
他の同人作品でも、一枚絵が部分的にアニメーション*6する例が、最近では見かけるようになってきた。
3D・ADVの均一な空間
『人工少女』『らぶデス』『すくぅ〜るメイト』のような3D・ADVでは、コンピュータがパースを計算するため、手書きの絵では難しい均一な空間を表示できる。
コンピュータ・パースの世界においては、立ち絵と一枚絵という二分法が、原理的に存在しない。対象と視点の配置、視角の設定、という操作があるだけだ。
すると、立ち絵と一枚絵の落差もない。そのかわり、キャラクターがリアルタイムに動くことで、実際にキャラクターが存在しているかのような、バーチャルな感覚を与える。
ただ、多くの美少女3D・ADVでは、アドベンチャー的パートとムービー的パートに、分かれて見えるようにしてある。プレイヤーが馴染んでいるインターフェイスだから、意図的に立ち絵的構図と一枚絵的構図を採用して、既存のノベルゲーム的文法に沿うようにしているのだろう。
ギャルゲの3D・ADVでは、まあ今なら『ラブプラス』や『アイドルマスター』だろうが、『ときめきメモリアル 3』では、当時はまだ珍しかったトゥーンシェーディング(アニメ調の陰影)を採用している。
昔の3DCGキャラクターは、肌がプラスチックのようだったりして、少なくともアニメのヒロインのような可愛いらしさを描けていなかった。だがトゥーンシェードを使うことで、質感が手書きのアニメに近づく。さらに、モーションキャプチャーと併用することで、リアルな動きも表現できる。
さらに将来的には、アニメーションの世界で、「フルCGリミテッドアニメーション*7」という手法も出てきている。時間軸でもCGが手書きのアニメに近づいていくかもしれない。
総括
- 立ち絵
- 平面的空間
- 直線的時間
- 日常的状況
- 汎用的リソース
- 一枚絵
- 立体的空間
- 円環的時間
- 非日常的状況
- 限定的リソース
ここまで述べてきたことを整理しよう。まず、立ち絵と一枚絵に分かれたグラフィックは、ノベルゲームならではの表現だ。たとえば、ライトノベルでは、分かれていないだろう。
立ち絵と一枚絵の使い分けについては、上の一覧のようになっている。エロゲでHシーンに、立ち絵ではなく一枚絵をあてるのは、常識といってよい。そして、そのように使い分ける原因には、立ち絵と一枚絵に関しての上のような落差があるはずだ。
ノベルゲームがノベルと違ってグラフィックを扱う以上、立ち絵と一枚絵の違いは根本的な構成・演出要素になっていると言えるだろう。
ただし、3DCGを導入すると、立ち絵と一枚絵の区分は原理的に消失する。そのように、グラフィックに新しい技術が導入されると、たとえば「広角レンズ的画面と望遠レンズ的画面」のように、新しい基準の方が適切になるかもしれない。
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