ノベルゲーム演出の立ち絵と一枚絵での違い3
概要
一般的なノベルゲームでは、立ち絵(+背景)と一枚絵と、グラフィックが2パターンに分かれている。今回は、立ち絵と一枚絵では、空間と時間の表現が異なることを見ていく。
立ち絵と一枚絵が描き出す空間
- 立ち絵
- 平面的空間
- 一枚絵
- 立体的空間
立ち絵と背景を組み合わせた画面は、平面的な空間構成になる。なぜなら、立ち絵と背景のパースペクティブ(遠近法)が別々で、空間が統一されないからだ。
ここで、背景に写真を用いることで、立体的になったりはしない。むしろ、立ち絵のイラストと背景の写真との、パースや色調などの落差が目立ち、より平板な印象になるだろう。
たとえば、同人ゲーム『ひぐらしのなく頃に』では、写真を加工して背景に使用している。そうしたのには、背景を描く手間が省ける、という理由はまず大きいだろう。だがそれだけではないのだ。
この『ひぐらし』では、立ち絵と背景の落差が大きく、調和していない。だが、むしろそのことで、雛見沢という場所の、不気味な存在感を醸し出せてもいる。
マンガなら、つげ義春や水木しげるのマンガが、背景が人物より存在感を持ち、そのことで人物の無力感なりを描けるようなことだ。『ひぐらし』の場合は実写なので、叙情的なものではなく、即物的な恐怖になる。
他にもたとえば、アニメ『らきすた』のエンディングのように、アニメ絵の世界に実写を持ち込むと、異物感がある。この異物感を、『らきすた』では笑いの意識で、『ひぐらし』では怖さの意識に利用しているのだ。
しかしまあ、ギャルゲによくある青春・学園物であれば、人物と背景が調和していた方が無難だろう。『ひぐらし』は不調和を逆手に取った特殊例だが、一般的に不調和な要素は、物語への没入や人物への共感の障害になりがちだ。
対して、一枚絵では、立体的な空間構成が可能になる。1つのパースペクティブに、人物と背景が統合されて配置されるからだ。
立ち絵と一枚絵が描き出す時間
- 立ち絵
- 直線的時間
- 一枚絵
- 円環的時間
立ち絵で進行するシーンは、現実に近い時間が流れている、とプレイヤーに感じさせる。ポーズや表情が瞬時に変わるなど、デフォルメされた時間ではあるが、立ち絵が動き続けることで、時間が流れる感覚を与えるのだ。
ちなみに、そもそも立ち絵が動き続けるには、ポーズが2パターン以上、喜怒哀楽の表情に各2パターン以上が必要になる。ただ、腕だけポーズを変えるとか、目パチ・口パクとかで、最小限の変化にできなくもない。
対して、一枚絵で進行するシーンに入ると、時間が減速したように、プレイヤーに感じさせる。絵が止まっているから、時間も止まっているように感じるので、原理としては単純だ。
もし、この時間が停滞した感覚を強調したければ、一緒に音楽も止めたり、テキストやエフェクトのウェイトを重くすればよい。
しかし、一枚絵で時間が止まり続けていると、そのうち絵と文章が解離してくる。文章だけが展開して、絵が浮いているように見えてしまう。
そこで、一枚絵に差分絵を付加することで、立ち絵と同じように時間を流す手はある。差分で立ち絵に近づけたわけだが、立ち絵ほど使い回しは利かないので、それなりに贅沢な手法だ。
立ち絵と一枚絵が描き出す状況
- 立ち絵
- 日常的状況
- 一枚絵
- 非日常的状況
ここまで見てきて、立ち絵と一枚絵で、空間と時間の表象が異なることが分かった。それを状況の違いに使い分けることを考えよう。
ノベルゲームでは一般的に、立ち絵は日常を、一枚絵は非日常を描写するのに向く。たとえば、立ち絵は笑い、一枚絵は泣きの意識で用いられる、といったことだ。
現実でも、卒業式や葬式などの儀式的イベントでは、参列者が固まって動かない状況になり、時間の流れが遅く感じるだろう。そういうことと全く無関係でもない。
ここで、商業エロゲではほとんどの場合、一枚絵でHシーンを描く、という特徴がある。それは、エロマンガではクライマックスに見開きを使うことと似ている。
だが、なぜそうなるのか。もし、逆に立ち絵でHシーンをやったら、いかにも軽くて違和感がありそうだろう。そしてそれはまさに、非日常には一枚絵の方が向く、ということなのだ。
空間的な面では、一枚絵ではキャラクターの身体を大きく描け、パースを強調して肉感的に描けることで、ヒロインの性的な魅力を目立たせられる。
時間的な面では、時間が停滞するという事態が、日常から「ふたりの時間」「ふたりの世界」を切り離し、性的な欲望をかき立てるようになる。
このせき止められた時間を、ゲームシステム的に組み込んだ例に、たとえばCODE PINK『SEX FRIEND』がある。
同作では、Hシーンに明確な制限時間が設けられている。これはゲーム的になる分、情緒がない面もある。だが、「セックスフレンド」との関係がテーマなので、快楽主義的・刹那主義的な雰囲気が合っているのだ。
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