エロゲの未来的な流通戦略
概要
エロゲ業界には、制作費の上昇という課題が積まれている。その一方で、エロゲを無料配布し、そのフィギュア同梱版を販売するなど、新しい試みも出てきている。ここではそれらを見ながら、新しい流通の形を模索したい。
結論から言うと、あるゲームのギャルゲ版を無料配布して、エロゲ版を有料販売する、という方法を考えている。それは後述するとして、まず現状分析から始めよう。
現状分析
昔より今のエロゲの方が、制作費が高い*1。一方で、市場規模は小さいままだ。エロゲなら1万本売れればヒット、10万本も売れたらエロゲ史に残る大ヒットだろう*2。
制作費が昔より掛かるからといって、価格帯は上方に動かしずらい。特典版でもなければ、1万円を超えた価格では、ユーザも買いにくいだろう。逆に薄利多売はどうかといえば、1/3にしたから3倍売れる、というほど単純でもないようだ。
なぜ制作費が高くなったかといえば、単純にボリュームが増えたから。シナリオの分量も、グラフィックの枚数も、右肩上がりになっている。当然それらは人件費に反映される。
しかも、いまどきのエロゲなら、フルボイスとムービーは標準仕様だろうから、ボイスとムービーの制作費も加算される。さらに、初回特典に、オリジナルサウンドトラックCDやフィギュアを同梱するのも珍しくない。
このほか、ファイル共有ソフトによる違法流通や表現規制など、エロゲ業界が抱えている問題は多い。しかし、その辺りのより詳細な分析は、別の機会に譲ろう。
「とにかく不景気」で「先行きが不透明」といった話がしたいのではない。エロゲの未来像を示すのが、このエントリの目的だ。
新規開拓
フリーエロゲ『se・きらら』
figma se・きらら 神楽亜矢 モーニングコーヒーver. (PCゲーム「se・きらら」同梱)(ネイティブオンライン限定)
- 出版社/メーカー: マックスファクトリー
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『se・きらら』は、無料配布という非常に珍しい流通形態のエロゲ*3。そのかわり、フィギュア同梱版を有料で販売する。フィギュアが商品本体で、エロゲはその販促という形だ。
これは、クリス・アンダーソン『FREE(フリー)』で示されているような流通戦略だ。すなわち、デジタル情報分野(ビット経済)では、限界費用が低減するため、無料で流通させて利益を得る、という方法が可能になる。
ただ、『se・きらら』は画期的な試みではあるが、その売り方をそのまま模倣するのは難しいと思う。『se・きらら』が成功したとしても、多くのエロゲ企業が同時に実行できるほどのパイはなさそうだ。
それにもし、無料配布が一般的な形態になったとしたら、未成年でも成人向けコンテンツをダウンロードできる環境が、規制団体から問題視されるだろう。
フリーギャルゲ『快盗天使ツインエンジェル』
- 出版社/メーカー: セガ
- 発売日: 2008/09/18
- メディア: DVD
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パチスロ 快盗天使ツインエンジェル2 オリジナルサウンドトラック
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- 出版社/メーカー: WAVE MASTER
- 発売日: 2009/05/20
- メディア: CD
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逆に言えばもし、エロゲ市場を完全に吸収できるほど、巨大な市場を前提にすればありうる話だ。
というのも、パチスロ『快盗天使ツインエンジェル』を原作にした、商業クオリティのフリーゲームが出ている。パチンコマネーが巨大だから、無料配布が成立するのだろう。
次では、パトロン市場が存在しない前提で、エロゲのフリーコンテンツ戦略を考えてみたい。
企画提案
それでは、企画を提案しよう。あるタイトルについて、一般向けのギャルゲ版と成人向けのエロゲ版と、同じ内容の異なるバージョンを制作する。そして、ギャルゲ版を無料配布して、エロゲ版を有料販売する、というのはどうだろうか。
まず、パッケージ版よりダウンロード版は安くできるという前提を置く。商業流通を通さないだけで半額にできるし、パッケージを作る費用なども抜ける。もちろん、DL販売の業者を通せば、その手数料は引かれるが、それでも安くなるだろう。*4
だが、ダウンロード販売には、広告をどうするかという問題が残る。ここで、シェアソフトよりフリーソフトの方が、格段に多く流通する。そこで、フリーソフトを広告にする。真の広告とは、製品そのものだ。
つまり、ギャルゲを無料配布することが、広告や販促も含めた流通コストの削減との、交換条件になっている。無料配布というのは、無料広告*5でもあるのだ。
ありえないと思うだろうか。だが、現在でも体験版はふつうに配布されている。体験版は序盤だけプレイできるという形が一般的だが、そのボリュームを調整しようという話だ。
ここで、ギャルゲ版とエロゲ版の2つだけでなく、ヒロインごとに独立するという手法も取れる。あるいは、シナリオ、エンディング、キャラクターを追加する、という手もあるかもしれない。
さらに、イベントCGやその差分といった単位まで分解して、アイテムとして販売することも可能だろう。これは、オンラインゲームにおける課金アイテム、たとえば『アイマス』のDLC(ダウンロードコンテンツ)のような発想だ。
アイテム単位でDL販売できるようになると、ファンディスクやアペンドディスクより追加しやすい。さらにたとえば、それを予約制にして、予約が一定数に達してから生産すれば、購入数が確保できる。
その予約投票制は、コンテンツファンドを代替したような機能を果たす。ロングテール的に、マニアックな嗜好も拾い上げられるかもしれない。じつは、ただボリュームが多いより、ツボを突いたシーンがある方が、ユーザ側にとっても嬉しいかもしれない。
さきほどの規制問題についてはどうか。成人向けが有料なので、課金時に認証するシステムも可能だろう。だから、成人向けを直接配布するより、成人規制をクリアしやすい。
しかも、エロゲ部分だけオンラインで配信などすれば、違法流通対策も取れる。ブラウザで動作するノベルゲームはすでにある*6ので、オンラインゲーム化も視野に入れられるのだ。
- Kanon - Rmake Trial Edition -
- 「まぜまぜのべる」
- オンラインでノベルゲームを作成できるサービス
- 他にも、『メモリーズオフ』の素材を元に、ユーザがノベルゲームを作成できる「のべすと(β)」というサービスもあった
今すぐには無理かもしれないが、5年後、10年後には、ありうるのではないだろうか*7。
関連書籍
- 作者: クリス・アンダーソン,小林弘人,高橋則明
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2009/11/21
- メディア: ハードカバー
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*1:コンシューマゲームでは、よりスケールの大きい制作費高騰が起こっている
*2:コンシューマのギャルゲは、それよりかは規模が大きい
*3:ただし、アリスソフトが過去の作品をフリー化している、という先行例はある
*4:パッケージは作って、Amazonで販売する、というのはありうる。マーケットプレイスを利用すれば、既存の流通より安くなるからだ
*5:実際には、サーバ代が掛かる。そこで、ユーザ登録するようなサービスが仲介する形態も考えられる
*6:エロゲとは方向性が異なるが、『ときめきメモリアルONLINE』や『ai sp@ce(アイスペース)』という前例もある
*7:ただ、エロゲ業界では流通団体の力が大きいため、もしこの企画が実現されるとしたら、それは新規参入者になるだろう