美少女ゲームの序盤がユルい件について
概要
美少女ゲームをプレイしていれば、「序盤がユルい」という体験はしていると思う。たいていの場合、ストーリーがほとんど進まず、雑談ばかりしている。以下では、具体的にどうユルいか、なぜ序盤がユルいのか、序盤のユルさをどうするか、といったことを考えていく。
名作でも序盤はユルい
名作でも序盤はユルい。たとえば、泣きゲを代表する『AIR』でも、ご多分に漏れず序盤はユルい。
まず、主人公・国崎往人の行動がユルい。全く生活能力がなく、まるで「無能の人」のようだ。これまで、どうやって暮らしてきたのかが気になる*1。
また、ヒロイン・神尾観鈴がカブトムシに興味を示しているところなどは、精神年齢が低いのではないかと思ってしまう。「池沼」などとは決して思わない(「池沼キャラ」「原作レイプ」という言葉 - 萌え理論Blog)が、そのように言われてしまうのに、序盤のユルさと、シナリオ、グラフィック双方の幼さがあるかもしれない。
だが、中盤から悲劇的設定が明らかになり、シナリオは見違えるように引き締まってくる。キャラクターも急に輝いてくる。だから、最初のほうのユルさだけでは、作品を判断できない。
とくに、初めて美少女ゲームをプレイする場合、それがどんなタイトルであろうと、序盤のユルさは約束事だと割り切らないと、投げ出す原因になるかもしれない。
『AIR』などの泣きゲより先代で、たとえば『同級生』にしても、『EVE burst error』にしても、かけあい漫才的やり取りは共通している。だが、どのタイトルも決まって序盤がユルいとしたら、そこには何か事情があるのではないだろうか。
なぜ序盤がユルいのか
話を分かりやすくするため、美少女ゲームの中でも、非18禁のギャルゲではなく、18禁のエロゲ、それも恋愛系エロゲに話を絞って*2展開する。なぜエロゲの序盤はユルいのか。
エロゲはコンシューマゲームに比べて市場が小さい。すると、薄利多売ができないため、価格を割高にせざるをえない*3。そこで、ボリュームが要求される。
この要求は自然だ。もしたとえば、エロゲがマンガやラノベの10倍以上の価格なのに、同じ時間で読み終わってしまうとしたら、ユーザ側としては不満だろう。それならマンガやラノベを読んだ方がよい。
したがって、一定のボリュームを保証する必要がある。ここで、絵の枚数や音楽の曲数を増やしたり、ゲームシステムを複雑化していくよりは、テキストの量を増やす方がコストパフォーマンスが良い。
さらに、序盤を引き延ばす方が、終盤に比べて容易だから、ボリュームが膨らんでいく。つまり、良く言えばサービス、悪く言えば水増しなのだ。
ところが、オタクは体育会系というより文科系で、放課後的なユルさを好むところがある。ヒロインとユルユルした序盤を過ごすのは、まんざらでもない。そういうわけで、エロゲ特有の「お約束」として、ある程度は許容されているだろう。
序盤のユルさをどうするか
だが、「お約束だから」で終わらせず、ユルくない序盤、あるいはユルさを利用した展開の可能性も探りたい。
たとえば、『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』では、並列世界という設定が、早い段階でプレイヤーに示されていた。ストーリーラインが複数あることで、あるラインが序盤のまま、別のラインで中盤に入ることを可能にする。そのため、話が少しも進まない事態を避けられるのだ。
『Prismaticallization(プリズマティカリゼーション)』では、ループ世界という設定が示されていた。ストーリー上の時間が最後まで進むと、最初に戻って一回りする。すると、導入部にあれもこれも詰め込む必要がないので、スマートに導入できるのだ*4。
『AIR』を再び見てみよう。最初は観鈴の幼さが目についた。だが、ストーリーが進むうちに、観鈴の境遇がしだいに分かってくる。そうして、笑いから泣きへとシフトチェンジすると、たあいのないやり取りまで、感動的に思えてくる(なぜ『AIR』の観鈴は「がお」と言うのか - 萌え理論Blog)。
『AIR』においては、序盤で張り巡らした「根」が、中盤の「幹」や、終盤の「実」を支えている*5。笑いから泣きへと進むことで、たあいのないやり取りも、輝かしい思い出のように変わる、ノスタルジー的な手法となっているのだ*6。
最後に、同人ギャルゲの『ひぐらしのなく頃に』に触れよう。『ひぐらし』では、こうした構造を継承しつつ、独自の工夫を加えている。まず、連載形式で発表することによって、プレイヤーは時間を置いてループ世界を体験する。選択肢をなくしたこと*7と合わせて、序盤を何度も読み返さずに済み、作業感を低減している*8。
『ひぐらし』の第一話となる「鬼隠し編」では、笑いから怖さへと反転する構成になっている。ヒロイン・竜宮レナの「嘘だ」という言葉をテコにして、「部活的」日常から「オヤシロ」の非日常への転回が、まるで柔道の投げ技のようにキレイに決まった*9。
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*1:人形芸で暮らしの糧を得ているという設定があり、舞台となった町とたまたま相性が悪かったという理由付けは一応ある。だが、それはエクスキューズで、物語中でそうしているように、これまでも「ひも」で暮らしていた、という深読みができなくもない
*2:陵辱系エロゲについては、ジャンルの性質上、序盤から早い展開になることも多い
*3:アリスソフトのように、廉価で販売するところもあるが、全体から見て特殊な例である
*4:そのかわり、同じシーンを何度も見ることになるため、テキストスキップ&フラグ立ての作業的攻略になってしまう面があったのも否めない
*5:このように喩えたのは、三部構成になっており、序盤に選択肢が多いから
*6:ただし、麻枝准に対するインタビューによると、泣きの手法はKeyのシナリオライターから学び、笑いの手法の方が得意だということが伺える。本人としては、日常やそこでの笑いに、重点があるのかもしれない。しかしそれを踏まえても、『AIR』が泣きゲだという、世間の評価は妥当だと思う
*7:コンシューマ版では選択肢が導入されているが
*8:それでもやはり、「部活」などの序盤のやり取り自体は、ユルく感じるが