無断転載をする人の品格

概要

Tumblr情報・転載問題まとめ - 萌え理論Blog

Tumblrの無断転載問題は上記を参照。このエントリでは、問題単体の良し悪しよりも、他問題との比較検討を目的とする。最初に、Tumblrは絵師にとってはスパム同然なのではないか、という問題提起を行い、次にニコニコ動画などの動画サイトを取り上げて、「無断転載を(支持)する人の品格」を問う。

無断転載をする人の品格

この件自体については、常識的に考えて、スパムは肯定できない、という消極的な形で否定しておく。ただ、スパムは方法の問題だが、広告の内容とは別の問題だと考える。さて、上のエントリから離れて、ロジックを他の事象に当てはめたい。

Tumblrは楽」→「ReBlogをやりまくれ!そうすれば、誰かが改善してくれる!」というのはどうか。逆に、「宣伝してやってるんだから、むしろ感謝されるべき」*1スパマーが言ったら、どうだろうか。スパムはいけないが無断転載は良いのだろうか。YahooブログやVIP系ブログの転載はいけないが、Tumblrの転載は良いのだろうか。

おそらく、スパムほど無断転載が非難されないのは、スパムは自分も面倒臭い思いを日頃しているのに対して、無断転載は自分が権利者でない場合がほとんどで、タダで見られて美味しい思いをすることが多いからだろう。だがそれでは、つまるところ、他人事だから無責任だということではないか。

絵師の立場をブロガーの立場に置き換えれば、大手ニュースサイトが元エントリを全文転載してしまえば*2、掲載元サイトへのアクセスは激減するだろう。現状でも直帰率はかなり高いのだから。いや…、RSSの全文配信*3のように、掲載場所を問わない閲覧形態になっていくのが、Webの流れだとしても、さしあたり他者への想像力は欲しい。

搾取されていたら、無断転載すればいい、か?

窪田義行のコメントを見たときには頭に血がのぼり、「日本将棋連盟なんてさっさと潰れて、大半の棋士は路頭に迷えばいかがですか」と罵倒コメントを書きそうになり、(…)

http://d.hatena.ne.jp/yomoyomo/20071022/shogi

このロジックでいくと、「Tumblrに転載させないイラストサイトなんてさっさと潰れて、大半の絵師はpixivにひきこもればいかがですか」*4ということにでもなるだろうか*5

ニコニコ動画から削除することは、アニメの権利者に不利益しかもたらさない。逆にニコニコ動画を活用することで、テレビ局の巨大な中間搾取を排除し、既得権益者に甘い汁を吸わせることなく合理的な経営が出来る。人を人とも思わない過酷な労働環境に置かれたアニメーターにおいしいご飯を食べさせることもできる。

http://d.hatena.ne.jp/pmoky/20071028/p1

これはありえない。「ニコニコはタダ」→「ニコニコを見まくれ!そうすれば、誰かが(DVDを買って)改善してくれる!」というロジックではないか。DVDの特典映像も流れているわけだが。こういう意見がある一方で、アニメ業界関係者はそのようには考えない。

「お前一人の歪んだ善意によって(コピーする事で)食えなくなる人間がいるんだよ。フリーのクリエイターなんかは飯を食えなくなっちゃう」

http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20071026_anime_nicovideo/

テレビ局や広告代理店やJASRACが搾取しているというのなら、YouTubeニコニコ動画はそれ以上に搾取している。ニコ動のアフィリエイトはアニメ制作者に還元されないように、そもそも制作費を払わないのだから*6。また、NHKは広告料はないが、制作費を予算通り支払うので、文字通りの意味でアニメータに飯を食わせている。

ニコニコ動画がTV局に取って代わっても、現状のように制作費が払われないままであれば、それは単に放送利権からWeb利権に変わっただけで、末端アニメータの生活はもっと過酷になるだろう。たとえ権利団体が中間搾取していたとしても、無断転載でクリエイタが喰えるかは、それとこれとは別の問題である。アニメに関しては、また項を改めて取り上げたい。

Web業界は著作権に守られている

だいたい、はてなも含めて、Web業界は著作権に守られているではないか。文章やデザインなど丸ごとコピーサイト(スパムサイト)を作ることに何の制約もなくなったら、Webサービスは打撃を受けるだろう。そのとき生き残れるとしたら、サービスのソースコードが公開されないため、同じ動作を再現できないからだろうが、そこは非公開にしたまま、コンテンツの作者は転載を認めろというのはどうか。(ゲームなどをのぞいた)コンテンツでは、表現されたものが全てなのだ。

いや、もっと飛躍して、すべてがOSSになる、という想定はどうか。だが、オープンソースと比較*7して、コンテンツ産業の権利者は意識が遅れている、というロジックには違和感を覚える。OSなどのソフトウェアは性格上、ある程度は長期的に運用されることが前提になっている。後の保守・管理・運用などがなければ、システムが動かない場合がある。しかし、コンテンツは非常に短期間で消費できる。イラストは数秒見れば済んでしまう*8

なんでもありになってしまったら、例えば、違法コピーや海賊版が氾濫して問題になっている中国・韓国に対して、権利を求めるということと整合性が取れなくなってしまう。OSSも有料の部分があるからビジネスになっているのだから、ある程度は権利が保障されないとコンテンツは育たない。少なくとも、無断転載が部分的な流通に留まるのではなく、全体を占めてしまうと産業として成立しないだろう。

結論

権利問題は論点が多いが、あまり長文化すると読まれないので、そろそろ幕にしよう。最後に、私自身の立場を明確にしておくと、スパムを消極的に否定するのと同様に、無断転載も消極的に否定しておく。ただ、それ自体の主張より、認知の偏りの主張が目的ではある。

「消極的」というのは、「Tumblrなんてさっさと潰れて〜」と言いたいのではなくて、たとえばプライベートモードで使えるし、画像がサムネイルであればまた違うし、そのように、なるべく全体の利益になる方向を模索したい、ということだ。ニコニコ動画についても同様。

また、共有ファイルソフトの開発者逮捕や、ダウンロード違法化などには反対する。無断転載とそれを可能にする技術の問題は別だからだ。それらは、全体の権利バランスの問題で、オールオアナッシングではない。

*1:スパム元のエントリに一応リンクを貼っている場合がある

*2:文章を折りたためるなど、AjaxでUIを工夫する必要はあるだろうが

*3:自分のサイトで配信するのであれば、コントロールできるが、他サイトはコントロールができないので、上の例と全く同じなのではない

*4:pixivの絵も転載されていたが

*5:引用した文章の作者は、そのような意図を持っていなかったらしい。このエントリのコメント欄を参照

*6:ただし最近、ニコニコ動画YouTubeJASRAC著作権料支払いへ向かう動きがあった

*7:無断転載そのものとの比較ではなく、例えばクリエイティブ・コモンズとの比較になるだろうが

*8:有名絵師や頂点の上手い絵師は絵師に興味があるだろうが