社会調査とインターネット

卒論にネットを利用

九州大学の学生の方からアンケート依頼のメールを頂いたのですが、卒論にネットを使う発想が面白いと思いました*1

ただ、上記一番目のリンクのブログにid:R30氏のコメントが寄せられているように、社会調査の手法としては色々と偏りがあることはまず指摘できると思います。例えば、ネット上で「インターネット利用率*2」を調べれば、回答者が正しく答えると確実に利用率100%になるはずですが、その結果を社会全体に適用することはできないわけです。同様に、今回は知名度のあるブロガーにメールで依頼をしているようですが、ネットを多く利用している方に回答結果が偏ることは容易に予想できます*3。また、はてなダイアラーに聞けばSBM利用率も高くなるでしょう。

問 21.
あなたは、ネット上でどのような情報収集を行っていますか。次のうち、あてはまるものすべてを選んでください。
1.自分にとって興味・関心があり、ネット上でも話題になっている情報を集める。
2.自分にとって興味・関心があるが、ネット上ではあまり注目されていない情報を集める。
3.自分にとって興味・関心はないが、ネット上で話題になっている情報を集める。

ネットで話題あり ネットで話題なし
興味関心あり A B
興味関心なし C D

また、質問の選択肢の作り方も改善の余地があるでしょう。例えば上の引用部の質問は、表のような論理的可能性を考慮していないと思われます。Dの自分の関心もないしネットで話題にならない情報を収集する可能性が選択肢に反映されていません。そんな情報収集する必要があるのか、と思うかもしれませんが、むしろ一番重要性が高いのではないかと思います。例えば、アプリケーションを使ってエラーになったときの対処法とか、何かのサービスに登録する手順とか、そういうことを調べる機会が意外と多いと考えますが、最初から選択肢がない。

無意識の社会調査

ウェブ社会の思想 〈遍在する私〉をどう生きるか (NHKブックス)

ウェブ社会の思想 〈遍在する私〉をどう生きるか (NHKブックス)

ネットはもはや国民的なメディアに成長しており、社会学と関係あるでしょう。「リア充」(リアルが充実)という言葉があるように、ネットとリアルを分割する思考が一般的ですが、ネットは社会全体ではないけれど、社会の一部であるのは確かです。実際上のようにWebをテーマにした社会学の本もあります。

ところで、アンケートは意識的な調査ですが、無意識的な調査もできると思います。どういうことかというと、人力で調べるのではなくて、機械的な調査方法*4のことです。kizasi.jpのように、機械的な調査方法は既に商業的に実用化されています。もっと広義に考えると、はてブのホットエントリもそういう面がありますし、Googleのロボット検索もそうだと思います。

コンピュータの登場によって、大量の自然言語解析を行うことが可能になりました。これによって、社会学が経済学に近づいていく可能性があると思います。いわば、言語の流通から社会活動を捉えるというようなビジョンです。もっとも、貨幣は量的ですが、言葉は質的で複雑ですし、自然言語処理も発展途上なので、未開拓の分野だと言えるでしょう。

それで、個人レベルでは具体的にどうすればいいかというと、ネットをクロールしてスクレイピングするプログラム・スクリプトを組むことになります。その際、Plaggerのようなフレームワークを利用する手もあるでしょう。汎用的で巨大な仕様にする必要はなく、例えばmixiGraphのように、特定のサービスの特定の要素に注目すると面白いと思います。

最後に、素人が言っても学問的な説得力はないよ、と思うかもしれないので、参考までにもっとアカデミックなところから、話題に関連する論文を紹介しましょう。下のページから辿ると「2ちゃんねるが盛り上がるダイナミズム」という論文が見られます。

*1:というか、レポートや論文を執筆する際に、ネットで調べるのはむしろ普通になっているかもしれませんが、メールを貰うという身近な経験をしたのでエントリに起こしました

*2:一度でもネットを利用したことがあるかどうか

*3:ただし、何かの基準によって選出した知名度のあるブログと、ランダムに抽出したブログを比較するときには意味があるので、卒論自体を見てみるまで分からない部分もあります

*4:今回のアンケートもCGIサービスを利用していますが