「好きなことには集中できるのに、仕事になると集中できない人へ」

好きなことには集中できるのに、仕事になると集中できない人へ

好きなことには集中できるのに、仕事になると集中できない人へ

(…)やらなければならない仕事があるにもかかわらず、うまく集中できず、ついついダラダラと引き延ばしてしまう。
(…)なぜ自分はこんなに要領が悪いのか。
(…)自分は決して意図的にサボったり、だらしなくしているつもりではないのに…。
(本書冒頭から)

常に忙しいのに仕事は遅くてミスが多い、要領の悪い人のための本。忙しいのに仕事が遅いのはおかしいと思うかもしれないが、その理由は最後で明確にする。

昨日の日付の記事で時間管理と心理傾向を結びつけるものは昔からあると書いたが、今現在の流行は脳というハードウェアと結びつけるものである。「ゲーム脳」「キレる脳」「ケータイ脳」「脳トレ」「アハ体験」など、脳関連の書籍などが多く流通しているのは御存知の通りだろう。

ただ私自身は、脳還元主義にはやや懐疑的なところがある。一つは、純粋に科学的言説としての正当性と、二つ目は科学的な裏付けがあるとしても、教育的なものを医療的なものにアウトソーシングしてしまっていいのかという疑問と、三つ目は環境管理的な権力につながっていく部分への注意、というところである。

前置きはこのくらいにして、本の内容の紹介に移ると、題名通りに集中力がなくて、しなくてはならないことがいつも山積みになっている人に対する、ノウハウが書いてある。この本のテーマは「ADD」で、本文中にも頻出する。「ADD (Attention Deficit Disorder)・注意欠陥障害」とは、「ADHD (Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)・注意欠陥多動性障害」のうち多動がないものを言う。

通俗的イメージで乱暴に説明してしまうと、ADHDの例は学級崩壊の原因になる教室を動き回る落ち着きのない子供、ADDの例は部屋を片付けられない女、などをTVで見たことがあるかと思う(例えばふかわりょうが「汚屋敷・汚部屋」に行ってレポートするだとか)。ADDは動き回る多動がないために見つかりにくいのだという。

上の本では「ADD的傾向を持った人」にも適当に拡張して対象にしている。医学的なADDであるかそうでないかは問わず、注意力散漫で困っている人へのアドバイス、というところだ。本書は気軽に読めて読み物としてもそれなりに面白いものを目指しているだろう。より専門的な本は関連書籍の方に回した。

内容を要約してまとめると、一章はADDそのものについての簡単な説明。二章はADD的傾向を持って活躍したビジネスパーソンを紹介している。三章は職業についてのアドバイスで、四章はスケジュール管理の方法としてGTDを紹介している。五章は脳を有効に活用するための薬品・食品、六章は習慣・運動などが書いてある。

なんとなく既存の自己啓発本にADDというマジックワードを入れて焼き直したという感はある。特に二章では、ホリエモンなど有名な人物を挙げているが、あくまでADD「的」であって、ADDの人間が皆そう簡単に成功したら苦労はないだろう。とはいっても、そういう視点から見た読み物としては面白い。ADD的人間は興味やヴィジョンを見失うと失敗する、というのは興味深い。また三章で、ADD的人間は個人プレーが得意だが、自営より会社員が向いている、という説明もなるほどと思う。

本書の中で最も核心を突いているのは、難しくて嫌な作業からやれという部分である。ADD的人間が常に忙しいにも関わらず仕事が遅いのは、興味のない作業から逃避しようとして、優先順位の低いものから手を付ける、という傾向があるからだろう。これは前回紹介した本と一致している部分がある。すなわち、八割二割の法則で、仕事を八割進める作業は二割しかないのに、ADD的人間は逃避心によって、二割しか進めない八割の作業に没頭しているから、どうにもならないのである。