『「関係の空気」 「場の空気」』

「関係の空気」 「場の空気」 (講談社現代新書)

「関係の空気」 「場の空気」 (講談社現代新書)

日本を支配する「空気」をテーマにした一冊。空気論の源流は山本七平の「空気の研究」なのだが、米国在住の経歴を持つ筆者による、外部から日本を相対化する視線と、日本語の言語分析的な手法は、最近の日本の時事問題や企業の仕事現場まで含めて、新しい論点を切り出している。要するに日本の問題点を鋭く指摘する本であり、村上龍が推薦するのもよく分かる。

筆者は本書の冒頭で、第二次大戦の日米開戦などを例に取り、日本の問題点は「空気が場の全体を支配してしまった結果、決して合理的でない意思決定が、場全体の責任、つまりは誰も責任を取らない中で既成事実化する」と明快にまとめている。要するに、日本人にはその場の空気に流される内に、破綻してしまうパターンがありがちなのである。

もう少し私流に噛み砕いて説明するとこうも言えるかもしれない。ダメな政治論の典型に陰謀論があるが、そういうクライアントを一元的に管理制御するサーバがどこかに隠されている、という発想ではなくて、P2P的に増殖・感染するキー(ワード)にシステムを動作させる鍵があると考える発想だろうか。これは流動性の高い現代に有効な思考だろう。

本書の構成は題のように、「関係の空気」と「場の空気」に分けて論じるものだ。関係とは二人の関係、場とは三人以上の場、と簡潔に分類されている。そのように全体的に文章が平易で簡明である。筆者の経歴からすればもっと難解に書けるだろうが、曖昧な表現が排他性を生じさせると考える筆者は、自らの思想を貫いてそういうスタイルにしているのかもしれない。