書評:『スローセックス実践入門』

男根中心主義の解体

スローセックス実践入門――真実の愛を育むために (講談社+α新書)

スローセックス実践入門――真実の愛を育むために (講談社+α新書)

女性のオーガズムはほとんどが演技で実際には感じていない、そこでAV的なセックス観を脱しなければいけない、という問題提起をする本。「スローフード」に代表されるロハスな生活のブームに乗っかっただけかと思ったら、読み物としては意外に面白いので、以下ではそれを考慮して、アイディアの部分だけ簡単にまとめる。

「スローセックス」においては、男性中心・射精中心のセックスから脱却し、女性の全身で享楽することを指向する。そこでは、男性器はセックスの特権的な中心では何らなく、膣への挿入も単なる愛撫の一形態に過ぎない。また、指の方が繊細に制御できるために快楽が大きく、男性器にこだわる必要はないという、単純かつ大胆な発想の転換を提示する。

本文では女性の身体を楽器に喩えているが、男性の性感が男性器に限定されるのに対して、女性は全身が多声的に共鳴する性感帯なのである。それなのに、男根主義的で巨根願望的で男が女を支配するという、アダルトビデオのような性メディアによって固定観念が形成されているため、女性が秘めているポテンシャルを十二分に引き出せていない。

「実践」の部分は本編に譲るとして、著者の主張の骨格はこのように簡明だ。本書は漠然としたノウハウの集積ではなくて、セックスの脱中心化という大きなテーマに沿っている。ただ、「気」のような概念を安易に実体化するところは賛同できない。関連リンクから「悪徳商法」によると、著者の経歴はインチキ臭いようだが、そこら辺は適当に割り引いて読めば、現代にマッチした新しいセックスの発想を得られるだろう。