マーチンゲール法はギャンブルの必勝法か

マーチンゲール法とは

掛け金 1 2 4 8 16 32 64 128 256 n
合計投機額 1 3 7 15 31 63 127 255 511 2n-1
払い戻し金 2 4 8 16 32 64 128 256 512 2n
到達確率 1 1/2 1/4 1/8 1/16 1/32 1/64 1/128 1/256 1/n


マーチンゲール法というのは、簡単に言うと勝つまで倍賭けするという、古くから伝わる有名なギャンブルの賭け方です。必勝法とまで言われています。そこで本当にそうなのか検証します。


負けるとゼロで勝つと掛け金が二倍になるギャンブルを想定しましょう。勝率は1/2とします。そこで最初に1万円賭け、勝てば降りて1万円の得。負ければ次に倍プッシュして2万円賭けます。2万円の時点で勝てば4万円返ってきますが、今まで1+2=3万円賭けたので、やはり1万円の得で、そこで降ります。負ければ次に4万円賭けます。今までの掛け金1+2+4=7万円に対して次のリターンは8万円。このようにして、勝つまで続ければ、必ず1万円勝てるという方法です。


要するにそれまで賭けた合計額が2n-1(万円)なのに対して、勝って戻ってくる額が2n(万円)であり、常に1万円多い。だから勝つまで続け、一回でも勝てば勝ち逃げで降りれば、必勝であるといいます。これを繰り返せば蔵が建つ(?)。これは手を変え品を変えギャンブルの必勝法として伝えられてきました。今でもちょっとググればたくさんの解説サイトが見受けられるでしょう。しかし、本当に必勝なのでしょうか。これについて考察してみましょう。

マーチンゲール法vsパリミュチュエル方式

日本の競馬などのギャンブルではパリミュチュエル方式を採用しています。つまり、ギャンブルの参加者が賭けた金額から一定額(競馬なら25%)を天引きして、残りを勝利者に還元するように倍率を決めます。従って誰が勝っても胴元が損をすることはありえません。たとえ参加者がマーチンゲール法を使ってもです。倍率は人気によって決まります。なので、先に解説した倍倍ゲームの掛け率が維持できません。どういうことか。


勝つまで賭け続けられるという前提が成り立たないのです。単純な例では、例えばすべての参加者の掛け金の合計が100万円で、そのうち50万円が自分の掛け金だとしましょう。そのときパリミュチュエル方式では必ず胴元が回収できるように天引きした掛け率になっているので、50万円の還元率が2倍を超えることは絶対にありません。例えば1.5倍で75万円返ってくるとか。全員がマーチンゲール法を使っても、やはり胴元は破産しません。


要するに掛け金が天文学的数字になったときに(百億円とか)、賭けを受ける相手がいないので、倍倍の掛け率が成立しないのです。万馬券も一人でたくさん買ったらオッズは一倍に近づく、というか胴元の分を抜くと一倍を切ってしまいます。また上限額が決まっている賭けもあります。その場合も上限額で負ければ次がないので、やはり必勝にはなりません。これはマーチンゲール法が破れるというよりは、その前提が成り立たないというところでしょうか。これは胴元側の視点でしたが、次は賭け手側の条件を考えてみます。

クビツリロマンチスト

仮にパリミュチュエル方式ではないギャンブルだとしましょう。勝率1/2で勝てば2倍という理想的な条件を保証する胴元だとしましょう。この場合で今度は賭け手側について考えてみます。勝つまで倍プッシュするという方法は、無限の資産があることが前提になっていますが、ふつうは倍倍で増えていく掛け金には耐えられません。1024万円で負ければ2048万円賭けて、勝っても総計1万円勝つだけ。負ければ次は4096万円。勝っても1万円。もしそこで賭けられなければ、4095万円損しているはずなので、すごく酷い負け方になります。


つまり、裏を返せばマーチンゲール法は勝った場合が1万円しか勝てないのに対して、負けたときは大破局する賭け方なのです。無限の資産を持っているのでなければ、繰り返しているうちに、立ち直れない破産が来るでしょう。そしてもし無限の資産を持っているなら、そもそもギャンブルをする必要がありません。ちょうど両刀論法(ジレンマ)になっています。そこら辺が必勝法の舞台裏になっています。常識的に考えて、必ず勝てる甘い話があるはずがありません。むしろ、今までの負けを次で取り戻そうという一番危険な思想なのです。


もともと一発狙おうとか借金を返そうという人は資金に余裕がないことが多いので、マーチンゲール法で勝てる見込みはないでしょう。どうみても死亡フラグです。儲かるのは儲け話を売る側だけです。だいたいもし倍倍ゲームで賭けられる資産があるなら、ふつうに貯金とか元本割れしない方法で、確実に利子を受け取った方がリスクがないではないですか。4096万円も賭けられるなら最初から銀行に預ければ、利子率1%なら約40万円戻ってきます。破産の心配もなく。危ない橋を40回渡るよりはるかにましでしょう。その40回はどんなに掛け金が膨らんでも1万円の勝ちに過ぎません。

砂漠の蜃気楼

ここまで述べても、まだ反論を考えている人がいるかもしれません。いや、確かに賭け額が倍倍で膨らんでいくが、同時に連敗の確率が下がっていくので、勝ち逃げできる分有利ではないかと。それがそうではないんですね。最初の表の「到達確率」というところを見てください。勝率が1/2という定義でしたから、最初の勝率は1/2で、以降は半分半分に下がっていきます。それなら勝ち逃げできるのではないか。しかし、実際にシチュエーションを想定すれば、それが甘いことが分かります。どういうことか。


大雑把に言うと、128万賭けなくてはいけない場合は128回に1回位しか来ないんですが、128万儲けるには128回賭けて128回勝ち逃げしなくてはならないシステムなので、全然安全ではないんです。危機の先送りです。つまり、勝ち逃げも繰り返すと勝ち逃げではなくなってくるんです。言ってみれば、賭けるたび小額が返ってくるが、そのうち特大のマイナスが当たる逆宝くじ・逆保険を買い続けるというイメージでしょうか。有限の範囲内では、必勝どころか有利ですらないのです。勝ちの数は多いが負けの額がでかくなるよう、確率の見た目を変形してるだけのことなんです。


もちろん1億円スタートの128億円での場合でも同じようなリスクです。ちなみに、スタート地点を1万円にしようと1円にしようと、額を小さくした分勝ち逃げの回数を増やす必要があるので、結局のところ稼ごうとする額と同程度のリスクがつきまといます。有限の範囲内ではどれだけ資産がでかくても破産のリスクがつきまといます。資産より低めの上限額を設ければ破産は避けられますが、それでは必勝ではなくなります。ここら辺の仕組みが巧妙ですね。どうも上手く説明できてるのか分からないですが、数学的な間違いなどありましたらご指摘ください。



蛇足ですが、賭け続けられれば負けないという発想は、アキレスが亀に追いつけないとか不動の矢とか、なんだかそういう話に似ていますね。更に、無限連鎖講とか永久機関とか不老不死とか、人間は無限に誘惑されがちなのが興味深いところです。そもそも、無限の欲望こそが人間の定義なのかもしれません。もっと簡単に言うと、「次に勝てばいいや」と「明日やればいいや」という幻想は、同じ先送りの構造(ω矛盾)なんです。それは砂漠の蜃気楼に過ぎません。

結論

さて以上の理由から、私自身がマーチンゲール法を使ってギャンブルをしたことは一度もありませんし、これからも一度もないでしょう。またこの方法を必勝法だと吹聴することも一度もないでしょう。破産を招くという意味では、むしろ必敗法だとさえ思っています。今まで述べたように、現実には必勝の条件がまず成り立たないし、仮に成り立つならそもそも賭ける必要もない――無限の資産があれば増やす必要はない――からです。端的に言えば、無限の資産を持つ神だけが使える必勝法であり、有限の存在である人間が誘惑されてしまうと死の危険すらあるということです。


ギャンブル必勝法をシミュレーションしてみる - Open MagicVox.net 参考リンク
確率・統計であばくギャンブルのからくり―「絶対儲かる必勝法」のウソ (ブルーバックス) 参考書籍