キャラデザにおける体と服の法則

導入

キャラデザにおける髪の法則


髪の分析を体全体に拡張してみよう。そして身体を包む服についても考える。
現代美術家会田誠が、表層も大事だと言っていて、裸体は基本ではあるが、
萌えはフェチに関係があるから、スカートのシワのでき方だとか、そういう
細部に(萌えの)神が宿るだろう。今回は範囲が広いのでざっくり考えよう。

まずは前回のおさらいから。髪の量は自意識(の発露)の量に比例する。*1
では、髪の上に乗る帽子はどうだろうか? これも同じようなものだが、
どちらかというと服飾は自己の性格より外部の他者の眼を意識している。
例えばコックの帽子は高いほど偉い。これは性格ではなく他者の評価だ。


具体的には、少年の野球帽、田舎の子供の麦藁帽子、紳士のシルクハット、
画家のベレー帽、探偵のハンチング帽、学者の角帽、インド人のターバン、
など、帽子はポリシーを示すので、分かりやすいキャラ造形に活用できる。
ポリシーを示すのは、例えば部屋の中で帽子を脱げということから分かる。


ただし、外国では家の中で帽子を脱ぐのはくつろぐことを示すから、
失礼であるという風に国によって違う。違うのだが、それはやはり
ポリシーのようなものに関係ある。日本は、家=ウチに入った以上、
ポリシーのような水臭いものは捨てないと失礼だということだろう。


もう一つ例を挙げよう。ピーターパンのピーターパンハットは、
羽が一本飾られているのが印象的だと思うが、あれはやはり、
羽→空→夢→いつまでも少年でいたいというポリシーではないか。
単なる無自覚な幼さではなくて、そのスタイリッシュさがあるから、
ピーターパン症候群」などと命名されたりするのではないか。
もちろん羽は細部だが、キャラデザにおいては細部に魂が宿るのだ。
(これは特に資料を調べず、全体的にイメージで語っている。
サンタクロースの赤い衣装のように企業の戦略かもしれないが、
そうだとしても、その戦略にはやはり幻想が関わってくるだろう)


簡単にキャラデザに使えるよう操作的なまとめをすると、
帽子は職業に関係があることが多い、という風に言える。
髪型と職業より、帽子と職業が結びつく方が多いだろう。
もちろん調理帽やヘルメットなど実用上の理由もあるが。
だからSFやファンタジーなどで独自の世界観を作る時、
キャラの職業に合う帽子を考えると、リアリティがある。

服の襟元が、閉まっているか開いているかの違いは、
公的か私的かの違いがあるという。閉まる程公的だ。*2


例えば「ノーネクタイ」では入れないという場面を
想定すれば分かるだろう。またはアロハにネクタイ。
リクルートではネクタイを締めるのが基本なのだが、
首を絞めるというのは、遠くは首輪に繋がることも、
指摘しておこう。首を繋がれるのは強い帰属を示す。
逆に無礼講ではネクタイを外して頭に巻いたりする。


蝶ネクタイやリボンになると帰属は弱くなる。
また仮面ライダーでは、赤いマフラーが正義の
印だというのも、自分の帰属を示している。
なんでも帰属を示すんじゃないか? という
疑問が出てくるかもしれないが、後でやるように、
チャンピオンベルトや黒帯は帰属の色は薄い。


襟にフードが付いていると幼く見える。
首元が緩く調節できるから、そう見えるのだ。
占い師のケープなどは、それが神秘性になっている。
占いの能力は私的な(超)能力だからだ。

肩と腰は男女の性差が出る。基本的には、
肩≧腰が男で、腰≧肩が女の体型である。
子供を産むために、女性は腰が広くなる。
これはトイレのあのマークを思い出そう。
ただし、現代マンガは中性的に描かれる。


服も肩の部分に男女の性差が出やすい。
スーツは肩にパッドが入っているだろう。
肩に勲章、セーラ服のセーラーカラー、
などが典型的だが、メイド服の肩の部分、
(パフ・スリーブ)は、男に仕える女、
ということで、肩を膨らましている。

見た目が違うので当たり前だが、
肩よりさらに性差が強調される。
肩〜胸〜腰の辺りは性差を示す。
胸元を開くのが誘惑のサインだ。
加えて男女でどちらの襟が上か、
という着方の違いがあるだろう。


胸も頭部のように精神を示す。
ハートがあるのは胸である。
ただし頭の脳と違って、より
ハートに近い精神性になる。
例えば募金をして貰う赤い羽は、
自然と胸元につけるだろう。

やはり性差を示す。スカートが分かりやすい。
男の場合、個人の力量を示すことがある。
チャンピオンベルトや黒帯がそうだ。
「話の腰」というように「要」になるからだ。
実際武術でも「腰が入っていない」と言う。


これが女性の場合はエプロンになる。
ただし、これも時代地域で異なる。
太古は王族や僧侶がエプロンを用いた。
RPGとかでもよく見るだろう。

背中

どちらかというと裏に秘めたハートを示す。分かりやすい。
暴走族が背中に四文字熟語を背負っているのが典型的だ。
ここで、「背骨」とは、そのまま精神的支柱を示す。

腕〜手

「腕前」というように、技術に関係がある。
これは作業用の手袋などが分かりやすい。
もちろんこれは実用面が大きいだろうが、
オタクの指先が開いたレザー手袋なども、
オタクが「匠」の精神を持つからだろう。
(指先が開いてないとアキバの店頭で不便だから指先が開いていて、
レザーなのはミリタリとか格闘ゲームなものに憧れていてそういう
理由が大きいだろうが、そもそも素手でもいいはずで、手袋をする
のはギーク的な精神があるからではないだろうか。だがしかしまた、
重い紙袋を持つためとか、理由は一つでなく複数あるかもしれない。
各共同体での衣装の違いは、改めてまた別の機会に、本格的に扱う)


「秘められた力が開放される」シーンで
手を押さえている場面が多いのも頷ける。
かめはめ波波動拳は手から出るが、
何かを動かす力の源の表現になっている。
「お釈迦様の掌の上」とか、端的に「掌中」。

「地に足が立つ」というように生活に関係がある。
「大根足」がダサいのは、生活臭がするからだ。
幽霊に足がないのは、実生活がゼロであるからだ。
「顔を洗って出直せ」は考えを改めることだが、
「足を洗え」というのは生活も含めて改めることだ。


ただし、足にも精神性が全くないわけではない。
「地位にあぐらをかく」のように、根本的な態度を示す。
それでもどちらかというと生活態度ではある。

紋章の出現位置

今まで述べた事を総合してキャラデザに応用してみよう。
例えばファンタジーでは紋章が出現するのはよくあるが、
身体のどの辺りに出せばよいだろうか? 適当だろうか。


頭(額)に浮き出れば、精神的な力(呪文等も)が出る。
情緒も変わるときには、頬にも浮き出ると分かりやすい。


背中に出るときは、「この紋章は実は何々王家の〜」
という背後の脈絡のマーキングに用いられやすい。


胸に出るときは、よりハートに近い何かを継承している。
背中と違い、できれば本人が覚悟しているといい(北斗)。


腕(手)に出るときは、具体的な力や技を体得するとか。
Fateもそうだが、直接に文様の数が変わるのが面白い。


なぜ腰〜足に出ないかというと、連想が生活に結びつくからだろう。
忘却の旋律? 私のメロス? それはエロス狙いじゃないだろうか。


ストーリー的な部分に触れないで、単にゲーム的な能力を
示すために浮き出る紋章を使いたい場面もあることだろう。
そういうときは、武器防具アイテムに紋章が浮かべばよい。
ただし今度はそのアイテムには多少のエピソードが必要だ。

服のオリジナルデザイン

制服など既存の意匠ではなくて、
新しく服をデザインするときは、
今まで述べたことを踏まえて、
さらに服を部分に分けて
調べるとやりやすいだろう。*3


例えば、袖や襟と言った部分にも
タートルネック」のように
服飾上名前がついていて、
それを組み合わせることで、
多くのパターンを作れるようになる。
しかも、スリットは活動的に見えるとか、
フリルは可愛らしく見えるとか、
装飾のパターンも表現の手駒・手筋になる。


それは人体画を描くための解剖学と同じことだが、
さらに一般化すると、服装も言語であると言える。
音楽の「コード」や建築の「様式」とも繋がる。
文化記号論は、このように非言語的とされているものを
言語として捉えなおす試みを、しばしば行う。
それはHTMLやXMLの論理構造の明示化に似ているかもしれない。

因果関係について

やはり気になる人がいるかもしれない。
ここでは因果関係は深く考えていないが、
服装に意味が生じるとして、
最初に服装が単に(機能的に)用いられていて、
そこから連想が働いて意味が生じたのか、
最初に身体の意味づけがあって、
それにあわせて服装が発達するのか。
それとも両方が相互還流的なのか。


構造主義的な一つの見解としては、
「気にしない」という方法がある。
OOPにおけるカプセル化・隠蔽化で、
関数等の内部を気にしないように、
操作的に使えさえすればよいと。


それでも内部の実装が気になる人は、
更に構造主義記号論を知るか、
また服飾の文化史を調べるとか、
あるいは認知系の心理学をあたるとか…。
いずれにせよここでは深入りしない。


ここではあくまで、本当のところはどうかではなくて、
服をこうすればこういうキャラに見える、で構わない。