映画『バトル・ロワイアル』 ――孤島で生徒が殺し合うバイオレンス・アクション

概要

バトル・ロワイアル [DVD]

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紹介

大人の自信を取り戻すため可決された新世紀教育改革法「BR法」それは、全国の中学3年生から選ばれた1クラスの生徒たちを無人島に集め、最後のひとりになるまで殺し合いをさせる残酷なサバイバルゲームだった。

ある日突然、42人の生徒に強制される殺し合い。歯向かえば容赦なく消され、おびえ怒りながらも与えられた武器を手に、自分たちの命をかけた殺戮(さつりく)ゲームの幕を切る。初めて味わう死と隣り合わせの極限状態で、夢、希望、願い、友情…さまざまな自分の思いと向き合いながら武器を抱えて走る彼らの姿に、凝縮された青春像が垣間見れる。

また、ビートたけし演じる中年教師をとおして居場所のなくなった大人の憤りと寂しさも十分に伝わってくる。情けない嫌われ者教師からヒトラーさながらの冷徹殺人司令官、そしてラストに本当の心情を見せる中年男への変化をビートたけしが圧倒的な存在感で演じているのも必見。(中山恵子)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 新世紀、自信を失くした大人たちは、子供たちを恐れて、「新世紀教育改革法」(通称“BR法”)を制定した。

 その法律に従い、年に一度、全国の中学校から1クラスが対象に選ばれる。そのクラスの生徒は、無人島に送られ、爆弾付きの首輪を装着させられる。そして、制限時間の3日間、最後のひとりになるまで、殺し合いをさせられるのだ。

 その「バトルロワイアル」に今回選ばれたのは、城岩学園中学校・3年B組の生徒たち。元担任だった教師・キタノ(北野武)が、ビデオをもとに説明する。そして、食料と武器をつめたバッグを、生徒にひとりずつ渡して、ゲーム開始。

 極限状態に追い詰められた生徒たちは、殺し合ったり、自殺したり、管理側に抵抗しようとしたり、様々な行動をとった。そのような中で、男子生徒・七原秋也(藤原竜也)は、女子生徒・中川典子(前田亜季)を守るため、武器を取ることを決意。転校生・川田章吾(山本太郎)とともに、島から脱出しようとする。

 だが、その行く手に、もうひとりの転校生・桐山和雄(安藤政信)が立ちはだかった。マシンガンを持った彼は、次々と生徒を殺害しており、非情な強敵だ。はたして、誰が島から脱出できるのだろうか……?

解説

孤島で生徒が殺し合うバイオレンス・アクション

 殺し合いの代名詞に「バトロワ」がよく使われるように、日本のデス・ゲームものを代表する作品。公開当時、メディアで物議をかもした話題作だ。バイオレンスシーンが多いことから、R-15指定付き。しかし、思ったほど露悪的ではなかった。

 まず、バイオレンスではあるが、スプラッタ色は薄い。描写のグロテスクさなら、たとえば、『CUBE』、『SAW』、両シリーズのほうが上回っている。手榴弾をくわえた生首にはさすがに驚いたが、全体的にカラッとしていて、見るのが苦痛なグロ描写は少ない。

 ようするに、ヤクザ映画のようなもので、人がポンポン死ぬが、痛みは感じさせない。だから、見ていて爽快感すら覚える。たしかに、中学生が殺し合う設定だけ見ると、問題かもしれないが、その中身は問題作というより娯楽作だ。撮り方にエンターテイメント色が強い。

 また、少年犯罪といった社会問題を想起させるため、子供をモンスター的に悪者にした内容かと、見る前は思っていた。しかし、実際に見ると、どうみても大人のほうが悪い設定なのだ。もし、この映画を見て学べるとしたら、それは命の大事さではなく、腐敗した社会の理不尽さだろう。

 だからといって、ただ何も考えずに見られるB級アクション、というわけでもないと思う。詳しくは後述するが、あの北野武が出演したことによって、B級の枠に収まらないテーマ性やメッセージ性を発している。つまり、北野が出ている部分が、北野映画になっているのだ。

戦争の箱庭化

 BR法の設定は荒唐無稽だが、それでも、時代や社会の反映を読み取ることは可能だろう。「大きな物語」の終焉、という図式を当てはめれば、大きな戦争(世界大戦)の記憶が忘れられて、小さな戦争が繰り返される。本作には、そのようなイメージを感じた。

 一言でいえば、「戦争の箱庭化」とでも言えるだろうか。戦時中の日本における戦争とは、決して箱庭などではなく、国民共通の問題だ。戦後、戦争映画はその体験を描いた。しかし、戦争を知らない世代も出始め、戦争体験の継承に断絶が生じるようになってくる。

 たとえば、ヤクザ映画の隆盛が、その代替の機能を果たしていたかもしれない。だが、ヤクザのマフィア化によって、ヤクザも身近な存在ではなくなっていく。リアルな暴力の経験がなくなると、暴力表現も変わってくる。

 そこで、失われた暴力や恐怖への想像力を、箱庭にシミュレーション化して描けば、本作や『リアル鬼ごっこ』、または『デスノート』といった作品になる。あるいは、暴力や恐怖をファンタジー化して描けば、『リング』や『呪怨』といったJホラーになる。

 さらに、マニアックな領域にも目を向ければ、たとえばノベルゲームでは、「伝奇」という形が好まれる。昔の神話や伝説から、イメージを借りてくる、という特徴はある。が、『Fate』にしろ『ひぐらし』(祭囃し編)にしろ、「戦争の箱庭化」という大きな枠組は変わらない。

 したがって、真に恐ろしい問題は、戦争の記憶が風化して、やがてまた繰り返されるかもしれない、ということなのである。

声を乗っ取る殺人者

 演技面に目を向けよう。クラス生徒が40人もおり、そのほとんどは、名前どころか顔も覚えられないうちにすぐ死んでしまう。しかしたとえば、千草貴子を演じる栗山千明は、印象に残る。それを見たタランティーノは、『キル・ビル Vol.1』に出演させた。ちなみに、ビデオのガイド役で、宮村優子カメオ出演している。

 そうした多数の中から、あえて桐山和雄を演じた安藤政信に注目しよう。彼は地味に良い仕事をしている。その最大の功績は、演じる安藤自らの希望で、台詞を消させた、というのもの。当初、「俺は俺を肯定する」などという桐山の台詞が、台本にあったようだ。小説ならまだしも、映画では浮く台詞だ。

 そのような経緯で、桐山はひとり無言であるため、彼にしかない迫力が生じた。とくに、銃で撃った女生徒の断末魔を、スピーカーで他の生徒に聞かせる場面が、印象に強く残る。他者の声を乗っ取り、無言のまま意思を伝達する彼は、『千と千尋』のカオナシのように不気味だ。

 無言という選択は大正解だろう。ただでさえ映画は尺の制約が厳しいのだから、生徒の人数を減らすことは、本作の重要な課題になる。そこで、桐山が無言で人数を減らすことで、中だるみせずにテンポよく進む。彼は、最もコストパフォーマンスがよいキャラクターなのだ。

昭和的な深作欣二、平成的な北野武

 そして、キタノを演じる北野武の存在感は圧倒的。40人いる生徒を喰ってしまった。芝居が上手いわけではないが、場の空気を支配している。彼はたんなる出演者ではない。北野映画を背負った、歩くジャンルなのだ。

 さらに、北野武は、一出演者に過ぎないにも関わらず、監督をも喰ってしまっている。たとえば、「走れ!」と画面に大書きされた、深作監督のメッセージは、いまひとつ伝わってこない。自殺した秋也の父親が、トイレットペーパーに書いた、「秋也ガンバレ」のように、空回りしている感じがした。

 それに対して、キタノの怒りは、映画という枠組を超えて伝わってくる。設定自体にリアリティはない。が、壊れた世界での狂った行動を通じて表出される、ヒステリックな気持ちはよく分かる。バトロワの世界もキタノの行動も、まるで荒唐無稽だが、そのありえなさを通じて、怒りや絶望が伝わってくる。

 というと、あの有名な「殺し合いをしてもらいます」というセリフとか、ナイフ投げのシーンを想像するかもしれない。しかし、実際に見てみると、それよりも水鉄砲のシーンのほうが驚いた。死を覚悟しているからだ。そして、傷つけることに覚悟を持てという、娘へのメッセージは、個人的に引っ掛かるものを感じた。

 これがたとえば、藤原竜也演じる七原秋也の「なんでみんな殺し合うんだ!」というシーンだと、劇的なカタルシスは感じるが、心に深く引っ掛からなかった。それは、彼のセリフが本質的には観客の代弁だからだ。対するキタノのセリフには異物感がある。

 深作のメッセージには、どこか昭和的なロマンへの羨望を感じた。たとえば、「走れ!」はプロパガンダの手法だ。だから、今の観客に伝わらない。対して北野は、平成のアイロニーを体現している。水鉄砲はパロディの手法だ。さらに言えば、キタノという存在自体が、教師のパロディだ。現担任は死んでいるのだから。

 キタノ/北野は、大きな物語が失われた世界で、他者とのディスコミュニケーションの中で、その断絶や諦念を受け入れている。そして、パロディという形で、その断絶を逆用して、コミュニケーションしている。だから、逆説的にメッセージを伝えることができるのだ。

 最後に、しかし、そのような時代を反映したせめぎあい、制作者と演技者の間でもうひとつの「バトル・ロワイアル」がある、というのはなんとも面白い。そもそも北野武を出演させた深作監督の判断が正しかったということだ。そして、そのようなせめぎあいが、「バトロワ」ものとひととくりにされる、他の作品群に欠けているものなのである。

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映画『SAW 2(ソウ・ツー)』 ――プレイヤーが8人に増え、拷問も強化した続編

概要

ソウ2 DTSエディション [DVD]

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映画「SAW2」公式ホームページ

紹介

『ソウ2』は第一作『ソウ』の多くの特徴を甦らせている。凝っている残酷な脚本は、犠牲者たちの“生きる意志”を“試す”ことを目的としている。まだ命運尽きてはいない策略家の連続殺人犯ジグソウにトビン・ベル、ジグソウの“ゲーム”の生き残りで、ふたたび戦うことを強いられるアマンダにショウニー・スミス、刑事としての枠からかなりはみでた行動に出るディナ・メイヤー(『スターシップ・トゥルーパーズ』)。脚本リー・ワネルによる凄惨で圧倒されるセリフがある。今回の設定は前作を上まわる不条理さに満ちている。荒っぽくうだつのあがらないエリック刑事(ドニー・ウォールバーグ)がビデオのモニターを見つめていると、ある家に神経ガスが充満してくる。数人の犠牲者たちに囲まれて、そこには自分の息子の姿がある。全員に謎めいたつながりがある。エリックはジグソウを捕まえるが、この無慈悲な人殺しは息子が閉じこめられている場所を明かそうとしない……エリックがジグソウのルールに乗ってこない限り、その場所が明かされることはない。『ソウ』のファンは『ソウ2』が気に入るはずだ。拷問はさらに激しさの度合いを増している。『ソウ』に嫌気がさした、あるいはお笑い草だと思った人は、『ソウ2』もやはり気に入らないだろう。登場人物が現実世界の人々のような行動を取ることはまれである。対立を解消するために話し合える時が訪れても、いくら命が危ないとはいえ、誰も意思伝達を図ろうとしない。体液と苦悶に歪む顔、苦痛の叫びのフェスティバル。それが好みであれば、この映画は必見だ。(Bret Fetzer, Amazon.com)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

【ストーリー】
目覚めたら出口の無い館に閉じ込められていた8人の男女。ジグソウの囚人たちが新しいゲームに臨んでいた。
ゲーム開始と共に遅効性の毒ガスが館内をめぐっていく。2時間以内にゲームに勝ち抜き、解毒剤入り注射器を手に入れないと死んでしまう。
8人の男女は注射器を手に入れられるのか?
一方、刑事エリックはジグソウを捕まえる。しかしジグソウは動揺することなく、エリックと2人で話をすることを要求する。
なんと、エリックの息子はジグソウに監禁されていた。驚愕するエリックは、ジグソウに詰め寄る。
果たしてエリックは息子が監禁されている館のありかを吐かせることができるのか?ジグソウの狙っているものは果たして何なのだろうか?

解説

8人に増え、拷問も強化した続編

 前作と監督が交代した、『SAW』シリーズ第2作。最初に注意しておくと、日本ではR-15指定されているように、グロテスクな表現が頻出する。しかも、前作よりもパワーアップしている。視聴して不快に感じる部分があるかもしれない。

 グロくて痛いシーンが多いために、話は面白いものの、見ていて疲れる作品になっている。登場人物が増えて拷問も多くなった代わりに、頭脳戦・心理戦の要素が薄れてしまった。ソリッド・シチュエーションというジャンルの趣旨からいえば、グロ描写よりもゲーム性に力を注いで欲しかった。

 グロ描写に力点が置かれ、登場人物が増えたこともあり、彼らは何も考えず、トラップにあっさり引っ掛かって次々と死んでいく。そのため、見ていて痛そうだとは思うが、だれかに深く感情移入することがない。首に書かれた暗号や「虹」というヒントも、最後には関係なくなってしまった。

 登場人物たちが対立を超えて協力することで、謎が解けていくという過程がない。前作のように、閉じこめられた人物の過去を、深く掘り下げることもしない。ほとんどは、犬死にするための役でしかない。さらに、命を大事にしろと説教を与える、当初のジグソウの趣旨もほとんど失われてしまった。

 それでもやはり、話自体は面白い。今回もどんでん返しが用意されていた。閉鎖された部屋の内外で、ふたつのゲームが進行するのだが、その並行した進行に必然性がある。ソリッド・シチュエーションは、なるべく状況を限定したほうがよいが、この場合は意図があるので構わない。

 視聴中、先がどうなるか、最後までずっと手に汗を握っていた。映像が止まるシーン、金庫が空くシーンなど、意外な展開も用意してある。続編ということもあり、前作ほどの衝撃はないが、スリルとサスペンスを追求する脚本は良い。

 ジグソウと刑事のやり取り(の結果)も面白い。追い詰めた刑事が焦り、絶体絶命のジグソウは余裕だという皮肉な構図。今回のジグソウのゲームは、前回のアダムのゲームと違って納得した。ただやはり、グロく殺す悪趣味さのために、ジグソウ側を応援したくなるほどでもない。

 そして、ラストシーンで、前作のバスルームが出てきたところは、盛り上がったし感慨深かった。細かいことだが、蛍光灯の点き方、その撮り方が格好良い。ただの蛍光灯でも、演出しだいでこうも印象に残るというのは、映画の面白さだ。

 グロシーンが多いため、見る人を選ぶ映画になっている。が、グロさにさえ耐えられれば、ハラハラドキドキ、興奮できる一作になるだろう。

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ソウ2――SAW2 (角川ホラー文庫)

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映画『SAW(ソウ)』 ――ソリッド・シチュエーション・スリラーの大ヒット作

概要

SAW ソウ DTSエディション [DVD]

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SAW(公式情報サイト)

紹介

監督のジェームス・ワンは、アダム役のリー・ワネルとともに脚本を執筆し、本作でデビューした。密室での男ふたりの死との闘いとともに、ジグゾウの犯罪がつづられ、彼らの運命が次第に明らかに。犯人の姿は見えないけれど、残酷なメッセージだけは伝わり、監禁された男たちと同じような恐怖に陥る。たたみかけるショック、謎とき、どんでん返しと、サスペンススリラーの王道をいく展開を、残酷で不気味な小道具を駆使して見せていく、ワン監督の勢いある演出がいい。鋭利な刃物でザクッと切られた感覚を味わえるソリッドスリラーだ。出演はケアリー・エルウェズ、ダニー・グローバーモニカ・ポッター。(斎藤 香)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

【ストーリー】
【シチュエーション1】 老朽化したバスルームで目覚めた2人の男、ゴードンとアダム。
それぞれ足首に鎖をはめられている。
2人の間には自殺死体。
まったく見当がつかない“状況”に散乱する、テープ・レコーダー、“再生せよ”と書かれたテープ、一発の弾、タバコ2本、着信専用携帯電話、そして2本のノコギリ。
耳障りな秒針の音と共に告げられたのは、「6時間以内に相手を殺すか、2人とも死ぬか」だった。
白く広い浴室につながれた2人。
生きるために相手を殺せ・・・逃げる方法はある。
その【正解】に届いた瞬間、究極の選択を見る!

【シチュエーション2】 タップ刑事はいまだ捕まっていない連続殺人鬼“ジグゾウ”を追っていた。
奴の目的は一つ。
命を粗末にしている人間に、その大切さを教えること。
しかし手段は、そのメッセージとは裏腹に、世にも残虐な“ゲーム”の中にターゲットである人間を放り込むのだ。
ジグソウは告げる「生に感謝せず、他人の苦痛を笑う奴らよ、私のゲームに勝て。
そうしたら“違う明日”を与えてやる。
さぁ、生きるために血を流せ」…殺人に直接手を下さないジグソウとは何者か?
そして、捜査上にゴードン医師が容疑者として浮かび上がってくる。
2つのストーリーが巧みに交錯する時、もはや、手も足も出ない。

解説

ソリッド・シチュエーション・スリラーの大ヒット作

 「ソリッド・シチュエーション・スリラー」というジャンル*1を、『SAW』とともに代表する作品。グロテスクな描写が多く、日本ではR15指定になっている。

 『SAW』シリーズは、『2』〜『6』、および完結編に相当する『ファイナル』まで、7本出ている。長く続いたヒットシリーズだ。CGを駆使したハリウッドの大作と比べれば低予算だが、アイディアで勝利した。

 物語の設定は、ふたりの登場人物がバスルームに監禁されるというもの。その主演のひとりには、脚本を書いたリー・ワネルが自ら出演している。顔の知れた大物役者が出るよりも、はじめて見る人物が狭いところに閉じこめられているほうが、かえって疑似ドキュメンタリー的なリアリティが出て良い。

 冒頭の10分間は魅力的だ。ソウの世界に引き込まれる。ひとつの部屋でふたりの人物が話すだけ、というシンプルな状況だが、力強いサスペンスを構成している。この部分に大金の掛かるような仕掛けは何もないのに、面白い。それはつまり、脚本が優れているということだ。

 そしてまた、結末の10分間が魅力的だ。今までのピースがパチパチとはまって、水が渦を巻いて流れるように物語が収束していく。そして、大きなどんでん返しが用意されている。ハッピーエンドではないが、熱がこもって余韻が残るエンディングだ。

設定をめぐる疑問

 そのように最初と最後が良く、すっかり満足したのだが、一方で疑問点も残る。それは3人の主要人物と関係するので、順番に見ていく。

 まず、犯人のジグソウから。設定上、銃に空の薬きょうを一発入れておくべきだろう*2。また、テープを巻き戻して、自殺した男へのメッセージを聞く、という場面も欲しかった。

 ジグソウは説教殺人犯だが、自らが言わんとすることに反して、自分が最も命を粗末に扱っている。だが、異常犯の心理なのだから、これはこれでいいと思う。関連して、アマンダのゲームは、トラウマを反復した「手術」と見立てられる*3

 つぎに、ゴードン。終盤のゴードンはある重大な決断をくだす。このシーンは説得力が少し弱い。たしかに、ゴードンにとって家族が大事なのは、嘘ではないだろう。だが、浮気のこともあるし、目的地がどこかも分からない。だから、自分を犠牲にしてまで、その行動に出るかと疑問に思った。

 これはジグソウと関連するが、足を切らなくて済む選択肢を用意して欲しかった。足を強制的に切られるのは拷問で、足を切らざるを得ない状況は自主的拷問だ。しかし、足を切らなくて済むのに、誤って切ってしまうのが、真の残酷なゲームだろう。体の傷だけではなく、後悔という心の傷が残るからだ。

 そして、アダム。アダムの正体について、ジグソウの事件の目撃者や共犯者など、色々と推測が可能だ。しかしここでは、ジグソウと関連して、アダムのゲームについて触れたい。彼のゲームも、鍵が最初に流されてしまうので、やはりたんなる拷問になってしまっている。

 自らの落ち度によって罠にはまる*4ほうが、ゲームの完成度が高い。

限定状況の可能性

 ストーリーの途中から、バスルーム外部の視点が出てくる。これは説明上しようがない部分もあるが、ジグソウを追うふたりの刑事のシーンは、ややB級感が漂っていた。これは、初代『CUBE』で禁欲していた外部の視点を、『CUBE ZERO』で描いてしまったこととも関連する。

 また、(午前)10時の時点で「(午後)6時まで」、つまり約8時間という制限時間が長すぎる。ゴードンは医者なのだし、それだけ余裕があれば、あの秘密に気付かないほうが不自然だ。だから、1〜2時間あればいいと思う。

 これらの問題は、閉鎖感の圧力が抜けてしまうところだ。空間、時間、人物などの状況を限定し、限られた中で最大限の可能性を引き出そうとすることが、ソリッド・シチュエーションものの面白さを形成する。

 その逆をやると、どうなるか。あちこちに舞台が飛ぶ。ラストに「10年後……」と時間を飛ばす。有名人をカメオ出演させるため、必要のない人物を登場させる。B級映画によくあることだが、たいてい散漫になりがちだ。

 ただし、群像劇という手法はある。これは、パニックものであったり歴史物であったり、観客の興味をひきつける壮大な背景を持っていることが、成功する条件になる。そして、壮大な背景を描くには、巨額の予算を必要とする。

 だから、『SAW』は『CUBE』より製作費が多いこともあり外部を描けたが、それが必ずしも幸運とは限らない。バスルームに鎖でつながれた状況から、どのように知恵を絞って脱出するかに興味が惹かれたのだが、『CUBE』のような自力で脱出する謎解きが薄い。

 また、ジグソウのゲームの設定では、ふたりが殺し合うのが目的だったはずだが、中盤は回想を挟んでわりと穏やかに進行している。相手に殺されるかもしれないと思う機会が、もっと互いに生じるような展開も可能だと思う。

 そういうわけで、ソリッド・シチュエーションには、まだまだ描き方の余地があると思う。しかし、それをあれこれ考えるにしろまず、『CUBE』と並んでジャンルを代表する、本作を見ないことには話が始まらないのだ。

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ソウ―SAW (角川ホラー文庫)

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*1:ただし、これは日本におけるジャンル分類だが

*2:ヒントを与えたという解釈ができなくもないが

*3:そして、ジグソウのトラウマを反復しているがゆえに、彼の立場を継承できる

*4:その点では、『SAW2』のジグソウと刑事のゲームのほうが納得した

映画『CUBE ZERO(キューブ・ゼロ)』 ――キューブ内外の視点が交差する脱出劇

概要

CUBE ZERO [DVD]

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1997年のぞっとするような『CUBE』、2002年の『CUBE2』に続き、本作『CUBE ZERO』は、『トワイライト・ゾーン』めいた第1作からの箱に閉じこめられた他人同士というテーマを、多少拡大してみせた。幸運なことに、今回は違いがある。主人公は、しばしば死が訪れる連結されたキューブの部屋で迷った一囚人ではなく、エリック(ザッカリー・ベネット)という名前のギークだ。彼はコントロール室に腰を降ろし、無実の人をみじめに苦しめることに対し、罪の意識を抱いて葛藤している。どこか遠くのオフィスにいる絶対の力を持つ未知の人物から、電話で命令を受けとっている。ある時点で、ついにエリックはみずからがキューブの迷路に乗り込み、女(ステファニー・ムーア)を助けようとする。だが、彼女はエリックの真意を疑ってかかる。シリーズ前2作の不可解な設定が、今回はさらにカフカ的に不条理な設定へと展開されている。独裁的な官僚めいたホワイトカラーの一団が拷問者としてやってくるのだが、キューブの意図を説明できないし、説明しようともしないのだ。想像力あふれる脚本家であり監督であるアーニー・バーバラッシュの力で、退屈な映画になりそうだったものが救われている。(Tom Keogh, Amazon.com)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 立方体の密室が集合している空間、キューブ。エリック・ウィン(ザカリー・ベネット)とドッド(デヴィッド・ヒューバンド)は、囚人の様子を、仕掛けられたトラップによって死亡するまで、モニター画面を通して監視していた。

 彼らは、キューブを管理し、中の囚人を監視する職員だ。ドッドは自分の職務を忠実にこなす。いっぽうで、コンピュータのような精密な頭脳を持つウィンのほうは、キューブ自体の謎に興味を抱いていた。

 ウィンは、被験者の女性・カサンドラ・レインズ(ステファニー・ムーア)に注目する。キューブ内部で目を覚ましたレインズは、他の囚人と出会う。彼らは記憶を消去されていたが、彼女だけは外界の記憶をわずかに残していた。

 いっぽう、監視室のウィンは、政治活動家だったレインズが、陰謀によってキューブに強制収容された可能性を疑う。また彼とドッドは、逃亡した同僚の処分を余儀なくされた。そうした非情さに耐えかねたウィンは、ついに脱出を決意する。そして、レインズ救出のため、キューブ内に自らおもむく。

 はたして彼らは、行く手を阻む殺人トラップをくぐり抜け、生きて脱出できるのだろうか……?

解説

キューブ内外の視点が交差する脱出劇

 「キューブ」と呼ばれる殺人立方体に閉じこめられる、という斬新な設定が話題を呼んだ『CUBE』シリーズ。本作『CUBE ZERO』はそのタイトル通り、前2作の序章に相当する。前作『2』の監督が続投して、キューブの内と外、囚人と監視の視点が交差する脱出劇を描く。

 内外の視点が交差するという構成は、同じソリッド・シチュエーションで後発の映画『SAW』にもあった。内外の視点がどう関係するか、というところにサスペンスが生じる。ただ、外が見えてしまうので、閉塞感が薄れるという側面もある。

 キューブのトラップのグロテスクな描写は、『CUBE 2』でいったんややマイルドになった。が、今回はPG-12作品ということもあり、グロさが増している。とくに、冒頭の人間が溶解するシーンは強烈。シリーズ中でも一番グロい。

 これは『SAW(ソウ)』シリーズにも言えることだが、シリーズ初代の作品が持っていたテーマ性が薄れていくかわりに、グロ描写が増していく。だがやはり、グロそのものよりも、そうした極限状況に置かれた、人間の本質を重視して欲しかった。

 たとえば、チップを人間に埋め込むことで、殺人鬼を生みだしている。だが、人格と関係なく操作されている(ように表現されている)のでは、本質どころか、そもそも人間でない。

 これが、前2作の殺人鬼であれば、その描写の善し悪しは措くとして、「怒りが殺意に発展した」とか「恐怖が殺意に反転した」とか、人間の心理を解釈する余地がある。チップによる暴走後には、これが全くない*1

 ストーリーは、ウィンがヒーローになって、レインズを救う話になっている。囚われの姫を救うような、その筋書き自体は王道だ。が、彼が救いに出た時点で、ヒーロー・ヒロインと脇役がはっきり別れて、生き残るメンバーの予測がついてしまう。

 ただ、初代につながるような結末はよかった。最も印象的だったひとりの登場人物の設定を、示唆するラストになっているのだ。

 本作は、『CUBE』シリーズという視点を離れて、単体で評価すれば悪くない出来だ。キューブの設定を知らせる面と、これからの展開を予想させる面が両方あるため、あれこれと推察して、見ていて飽きることはなかった。

 ただ、キューブ以外の場面は、わりと普通の映画だった。横暴に振る舞う義眼の上司や、幼い子供とともに追っ手から逃げる回想は面白い。が、どこかで見たような感じで、キューブ以前の脱出物に戻ったような印象も受ける。

 こうしてみると、初代はなんと非凡なのだろう。映画で描く焦点を、徹底的に絞り込んでいた。大部分で同じようなトラップの殺人をやっていても、こうも違ってくるのか、とあらためて驚く。

 本作は初代の設定を補完するだけでなく、初代と見せ方を対比して見ると、色々と興味深いことが発見できる。

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*1:もっとも、人格を無視した人間の操作、すなわち「マインドコントロール」の恐怖という、90年代に出てきた別の枠組はあるのだが

映画『CUBE 2(キューブ・ツー)』 ――時空を超える超立方体への進化

概要

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情報
  • 監督: アンジェイ・セクラ
  • 脚本: ショーン・フッド、アーニー・バーバラッシュ、ローレン・マクローリン
  • 出演: ケリー・マチェット、ジェラント・ウィン・デイビス、他
  • 製作国: カナダ
  • 公開: 2003年
  • 上映時間: 95分
紹介

一瞬先も読めない斬新なストーリーで、カルト的な人気を得た前作。このパート2は「各面に隣との出入り口がある謎の立方体(キューブ)の部屋」という基本設定は前作と同じで、新たな登場人物たちが決死の脱出を試みる。今回は、キューブを設計したと思われる兵器メーカーの存在が浮かび上がり、そのメーカーの関係者とおぼしき人物も登場し、謎を深めていく。
前作より進化したのは、各部屋の「罠」。侵入者をたちどころに殺してしまう仕掛けが、CGを駆使した映像で展開していく。また、時間のスピードが変わり、侵入した者を一気に老化させる部屋。あるいは、隣を覗くと、自分と同じ人間が別の時間を過ごしているのが見えるなど、「時間の狂い」がフィーチャーされているのもポイントだ。現実と非現実。現在と過去、未来。その辻褄合わせをしながら観る楽しみもある。キューブの存在に企業の陰謀を予感させ、物語に説得力を持たせたのも進化と言えるが、前作が多くのファンを惹きつけた“漠然とした不安感”が薄まったのは事実。俳優たちの演技も、やや大げさなのが気になる。(斉藤博昭)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

 あるとき、白い立方体の部屋に、人々が閉じこめられた。そこは、同じ形状の部屋が、数多く隣接している。立方体の集合体で作られた、巨大な立方体(キューブ)になっているのだ。

 ここからは、各部屋のハッチを通じ隣室へ移動して、出口を探すしか脱出方法がない。しかも、部屋にはときどき、殺人トラップが仕掛けられている。そんな極限状態のもとで、人々は絶望的なサバイバルを繰り広げる。

 人々は協力して、一つ一つ謎と罠をクリアしてゆく。だがやがて、ひとりの精神が狂い出す。残された脱出のヒントは、「60659」という謎の数字。

 はたして、このキューブから、無事に脱出できるのか……?

解説

時空を超える超立方体への進化

 続編ということで、「Cube キューブ」から「Hypercube ハイパーキューブ」に進化した。どう変わったのかといえば、部屋によって時間が異なる、という仕掛けがある。空間が限定されているぶん、時間の広がりを描く。これは面白いアイディアだ。

 続編なのでひねったわけだが、時間の操作だとは、予想していなかった。部屋ごとに時間の流れが一定していないことで、たとえば死んだはずの人間が再来したりだとか、奇怪な現象が起きていく。見終わったあとまで、不思議な印象が残る。

 しかし、SF的には面白い題材ではあるが、ホラー的には前作のほうが優れている。というのも、初代のキューブは、視聴者が直感的に理解できるものだった。金網の刃でサイコロのような肉塊になってしまうだとか。つまり、トラップが恐怖に直結しているのだ。

 設定が複雑化・高度化したからといって、必ずしも前より優れているとは限らない。本作は、時空がバラバラだという「不思議さ」が、もう少し「怖さ」に結びついて欲しかった。殺人トラップも幾何的な形状だったりして、全体的に「リアル」というより「バーチャル」な印象だった。

 ゲーム的な設定も、詰めの余地が残る。たとえば、時間がバラバラに流れているのに、最後には統一されるというメカニズムが分からない。前作の部屋が移動する設定も、多少は無理を感じたがイメージできた。今回はイメージできないので、納得できる設定や説明が欲しかった。

 もっとも、非凡な初代と比較される、2作目の宿命も感じる。監督も交代しているし、初代と同じものを求めるのは難しいだろう。『キューブ』シリーズを意識せず、本作を単体で評価すれば、面白い。

 面白いと感じたのは、たとえば、殺人鬼の時計が増えていくシーン。時間を超えて何度も殺す、という殺人鬼像は新鮮だし、見せ方も秀逸だ。殺人鬼の本人が何度も蘇るとか、さらなる発展の余地もあるだろう。

キューブの外部に到達する

 物語の最後、前作では描かれなかったキューブの外部に、ついに到達する。時間という題材は今回だけに留められるが、キューブ外部の提示はシリーズの方向性を左右するため、このラストは賛否が分かれそうだ。キューブの外部を描かないまま、続編を作ることもできたし、そちらのほうが無難な選択だろう。

 本シリーズにおいて、キューブの外部を描くことは、じつはシリーズのジャンルを変えることと同じくらい重大なのだ。じっさい、3作目の『CUBE ZERO(キューブ・ゼロ)』は、「ソリッド・シチュエーション・スリラー」だけではなく、別ジャンルの話が入ってきている。

 なぜ、キューブの外部を描くことは、たんなる場所の移動だけではなく、ジャンル移動を伴うのか。それはたとえば、ミステリで犯人視点から描くと、倒叙形式になるようなものだ。あるいは、ホラーで幽霊は姿が見えるまでが怖い、といった話と関連する。

 もっと言えば、舞台の「舞台裏」を見せるような、視座の移動があるのだ。外部を見せてしまうと、後戻りできなくなる。じっさい、『ZERO』を見てから、初代を見直すと、物語や意味が与えられるために、カフカ的な不条理感が減ってしまう。

 初代には、不条理感だけでなく、想像する余地があった。だが今回、キューブの存在理由は、陰謀論的な理由に落ち着いた。その陰謀論自体は、わりとよく見かけるものだが、本作の場合はキューブとの関係が問題になる。

 陰謀論的な外部の組織を描いたために、なぜ、その陰謀論はキューブで実現しないといけないのか、という疑問が浮上してくる。たとえば、あのような大規模な施設*1を作って、どのような利益があるのか、という素朴な疑問だ。人体実験や心理実験だとしても、ああいう立方体である必然性はない。

 逆に言うと、次回へのヒキになっている。単純にキャラクターとトラップを交換するだけではなく、キューブがどうなっているのかまで続編で明かす。すると、見ないと分からないので、興味を惹く。これはベタだが、強いヒキだと思う。

関連作品

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*1:初代について言えば、部屋の数を考えると相当大きいし、それを駆動させるのも大変そうだ

映画『CUBE(キューブ)』 ――ソリッド・シチュエーション・スリラーの代表作

概要

CUBE [DVD]

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情報
紹介

ゲーム感覚あふれる斬新なアイデアと、スタイリッシュな映像センスで、トロント映画祭やサンダンス映画祭をわかせた作品である。6つのハッチから出口を探すしか脱出方法はないが、部屋にはさまざまな殺人トラップが仕掛けられている。無駄なエピソードはいっさい排し、ただひたすら脱出サスペンスと心理ドラマに集中している。監督はデビッド・クローネンバーグ以来の衝撃と賞賛される、カナダの異才ヴィンチェンゾ・ナタリ。映画作りの常識を根底から覆した、画期的な映画である。(アルジオン北村)

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

ある日突然理由もなく、男女6人が鋼鉄の立方体の部屋に閉じ込められる。
そこは他にもたくさんの同じ部屋があり、その集合体で作られた、巨大な立方体(CUBE)になっている。
各部屋に6つあるハッチの中からひとつを選び隣室へ移動しながら出口を探す以外、脱出方法はない。
しかも部屋には様々な殺人トラップが仕掛けられている!
そんな極限状態の下、絶望的なサバイバルを繰り広げる6人。
やがて一つ一つ謎と罠をクリアしてゆくうちに、彼らの精神状態が徐々に狂い始めてゆく・・・
果たして無事にこのCUBEから脱出できるのか?あるいは本当に出口はあるのか?
今ギリギリの緊張の中、死のゲームがセットされた・・・

解説

ソリッド・シチュエーション・スリラーの代表作

 「ソリッド・シチュエーション・スリラー」と呼ばれるジャンルを代表する作品。本作の発想の原点は、同じナタリ監督の短編映画「Elevated」から。低予算の制作だが、アイディア勝負で大成功した。本作がスリラー映画に与えた影響は、タイトルを真似た便乗作があることからも見て取れるだろう。

 ストーリーは単純明快。殺人トラップが仕掛けられている立方体の部屋「キューブ」から、囚人が脱出しようとするだけの話だ。しかし、その部屋が何のために用意されたのか、という理由が全く説明されない。そのことが、カフカの小説のように、不条理な雰囲気を醸し出す。

 クローズド・サークルや限定状況が舞台のサスペンスは昔からある。たとえば、『バトル・ランナー』のように、デス・ゲームものも昔からある。それを踏まえた上でも、立方体という極限まで抽象化された空間で機械が殺人を行う、という無機質な印象が際立っているため、本作にオリジナリティを感じる。

 完全にアイディア勝利の作品。なんといっても、アイディアが素晴らしい。どうしても登場人物は薄っぺらくなるが、このゲームのような世界では、むしろヒューマンドラマは余計だろう。美術面で、部屋のデザインもセンスが良い。配色を部屋ごとに統一したことで、同じ形の部屋でも印象が異なっていた。

環境自体が人工的に構築された設定

 本作のとくに前半はドライでクールだ。この徹底した無機質性に注目しよう。これがたとえば、『SAW(ソウ)』になると、もう少し人間味が出てくる。邦画『バトル・ロワイアル』などは、本作と比較すると、かなり情緒的に見える。

 このことに世相を読み込むとどうなるか。たとえば、戦争で空爆によって一方的に攻撃するような状況では、人と人の戦いという感覚は薄れてくる。あるいは、コンピュータが人間のチャンピオンにチェスで勝ったことだとか。

 本作の前半には、非人間的な雰囲気がただよう。それは殺人者が冷酷といったことですらなく、機械が人を殺すために、たんに無感情なのだ。この非人間性は、『新世紀エヴァンゲリオン』の暴走するエヴァにも見られる。つまり、90年代の時代感覚だ。

 本作の設定は、スリラーの演出面でも優れている。たとえば、キューブのトラップ用機械は言葉を発しない。しゃべらないのが当たり前に思えるかもしれないが、SF的な機械は何かとおしゃべりなのだ。

 閉鎖空間でしゃべる機械の例としては、最近の邦画『インシテミル』がある。設定上しようがない面もあるのだが、あらかじめ機械が人間に警告するため、恐怖が薄れている。黙って殺す、本作の機械のほうが、はるかに恐ろしい。

 機械が人間のように話す、という発想は旧来的な産物だ。それよりも、本作や『マトリックス』のように、環境自体が人工的に構築された設定のほうが、現代的に感じる。なぜ現代的かといえば、ネットやケータイが人工的な環境だからだ。

 本作におけるトラップは、殺人方法のバリエーションが豊富で、とくに音を感知する部屋は緊張感が出ていた。だがじつは、人間による殺人のほうが多い。もっと機械の殺人が多くてもよかったと思う。

カフカ的な倒錯した官僚制の世界観

 物語の導入は、囚人が金網のトラップによって立方体の形に切断される、ショッキングな殺人シーンから始まる。これはグロテスクな表現だが、早い段階で危険を見せ、緊張感を作ることに成功した。中盤に入ると、やや中だるみ気味になるとはいえ、誰が生き残るかに興味が惹かれ続ける。

 結末に関しても、現実の力学とは違い、映画的な解はこういうものだろう。映画的な危機は、主体の欲望が映し出す影として生じる。脱出者は、もっとも欲望が希薄なため、危機に妨げられなかったのだ。

 このキューブ自体の存在理由は、本作の時点では、推測でしか示されない。キューブは公共事業で作られ、作ったからには使わなければ、ということだろうと、登場人物のひとりが推測する。これは、カフカ的な倒錯した官僚制の世界観で、現代的なビジョン*1だ。

 ストーリーは全体的に妥当だと思う。たとえば、立方体の存在理由をくだくだ説明しても、かえって蛇足になるのではないか。物語や意味といった人間的なものを排して、機械的・記号的に処理する、本編の脚本・演出で正解だ。

 ただむしろ、純粋なゲームとして見たときに、ゲームシステム設計の詰めを残している気がする。たとえば、脱出法は数学的な解法になっているが、そこに問題がいくつか残るようだ。

 ゲーム的な設定なので、人物やトラップなどの条件を変えて、違った展開や結末を想定したくなる作品。そしてじっさい、そのような続編が、制作・公開された。ソリッド・シチュエーションというジャンルは、まだまだ開拓の予知がありそうだ。

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カンパニーマン [DVD]

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*1:大昔にも巨大な墓を作っていたから、制度の無目的性は、時代に関係なく普遍的なことかもしれない。が、その倒錯性や自己完結性に、自覚的なところが現代的なのだ

映画『サイレン島 SILENT』 ――ユルくてキッチュなC級ホラービデオ

概要

サイレン島 SILENT [レンタル落ち] [DVD]

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情報
  • 構成: 田川幹太
  • 出演: 亜紗美、福山理子、田川幹太
  • 製作国: 日本
  • 公開: 2006年
  • 上映時間: 63分
紹介

“死の島”と恐れられる場所に残されたビデオテープから構成された衝撃作解禁。TV放映不可能!セルバージョン発売禁止!レンタルDVDのみで明かされる、その戦慄とは?新ジャンル、ドキュタッチ・ホラー。

物語(あらすじ)

注意:以下、ネタバレあり)

S県 I市―。

旅番組の取材でかの地を訪れていた
番組スタッフはある噂を耳にする。

地元民に「音無島(おとなしま)」
と呼ばれ恐れられているその島は
何年かに一度干潮時に陸がつながり
島に訪れる事ができる。
しかし、そこに行って帰って来た者は
一人もいないと言うのだ。

好奇心を刺激されたスタッフ達は
人々の制止を振り切り
島に行くことにした。
大海から現われた
か細い道を歩いて行った。

そして彼らは・・・・


二度と戻る事は無かった。


(本編冒頭のテロップ)

解説

ユルくてキッチュなC級ホラービデオ

 最初に断っておくと、『サイレン島』はゲームソフトや映画の『サイレン』と全く関係ない。タイトルはただの便乗だ。

 本作はレンタルDVDでのみ公開。いわゆるオリジナルビデオ、Vシネマというジャンルに属する。C級(D級、E級?)ホラーなのだが、反面教師としてあえて取り上げた。

 コンテンツ飽食時代の現在、A級作品ばかり見ていると、ついそれが当たり前のように感じてしまう。だが、映画作りは大事業だ。資本がなければこのような失敗作になる。

 マニアックな作品なので、出演者を紹介しておこう。まず、構成の田川幹太は、『杉沢村伝説 完全無削除 絶対恐怖版』といった、恐怖・心霊・怪談系オリジナルビデオの監督を務めていた。

 ふたりの女性レポータを演じるのは、杉浦亜紗美と福山理子。杉浦亜紗美は、元AV女優で、最近は『片腕マシンガール』『ロボゲイシャ』に出演。福山理子は、初代ミニスカポリスで、最近は『Cat Fight plus』に出演。

 内容を見てみると、「サイレン島(音無島)」という無人島で起こる恐怖を、疑似ドキュメンタリータッチで描いている。といっても、同じジャンルの『パラノーマル・アクティビティ 第2章/TOKYO NIGHT』のように怖くはない。むしろ、多くの部分が、笑いを狙ったものだ。

 ほとんどの場面が、ふたりの女性レポータとディレクターの3人で進行する。練乳とポン酢を持ち歩いて、どこでも間食する太ったディレクター。彼をふたりのレポータがいじめて笑いを取る、というコントのようなシーンが頻出する。

 ようは、深夜バラエティ番組の企画のような感じなのだ。もっと言えば、AVからアダルトな部分を抜き、芝居部分だけで構成したような感じ。だが、それではサビ抜きではなく、「ネタ抜きの寿司」のようなものではないか。

 オリジナルビデオだから、というのは言い訳にならない。『呪怨』や『ひとりかくれんぼ』のように、劇場版を公開するに至った成功例があるからだ。商業作としては駄作。

 ただ、自主制作レベルの基準で見たとたん、低予算ならではのアイディアが見えてくる。たとえば、音無ゾンビの動きなどは、演技力がいらない*1わりに、オリジナリティが感じられる。だから、自主制作映画を撮って動画サイトにアップしようといったときに、参考にはなるだろう。逆に言うと、動画サイトで見れば十分、という面もあるが……。

 本作は、ほとんどのところが安っぽく撮られている。が、最後の5分前からラスト直前の、旅館から逃げるあたりのところは、かろうじて緊迫感があった。全編をあのような感じで撮れれば、怖くなったかもしれない。

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*1:たとえば、『リング』の貞子の動きは、舞踏家が演技指導している。また、逆にコマを回しているので、それなりの演技・撮影・編集の技術が必要になる